日本には「公益通報者保護法」という法律がある。内部告発者を守る法律と思われているが、実態は「ザル法」だ。同法には「罰則規定」がないため、通報者の多くは組織から報復行為を受けているのだ。それでいいのか。多くの内部告発者に寄り添ってきた元「週刊現代」編集長の元木昌彦氏が問う――。
記者会見する前文部科学省事務次官の前川喜平氏=6月23日、東京都千代田区の日本記者クラブ(写真=時事通信フォト)

「正義は勝つ」はまれなケース

内部告発は割に合わない。結論からいってしまうとこうならざるを得ない。加計学園の獣医学部新設問題で、前川喜平・前文科事務次官が、官邸トップの圧力があったと告発した。

そんなことはなかったと安倍政権のイエスマンたちは否定したが、前川の告発を裏付ける内部文書が次々に文科省内からメディアにリークされた。

一強を誇っていた安倍政権も、この問題に終止符を打つことができずに支持率を急落させ、寵愛していた稲田朋美・前防衛相も陸自の日報隠蔽問題で辞任した。8月3日には内閣改造を行ったが、事実上、政権末期の様相を呈している。

稲田が日報隠蔽を了解していたというリークも、彼女の防衛大臣としての能力のなさに危機感を抱いた陸自からの内部告発であった。

これだけを取り上げると、内部告発は権力者さえも追い落とす力を持っている、正義は勝つと思えてしまうが、これはまれなケースである。なぜなら文科省や陸自という組織が権力者と対峙したから互角に渡りあえたので、個人が権力や企業を告発すれば、悲惨なことになりかねない。

不正を告発する人は誰もいなくなる

私が関わったケースに検察の裏金問題がある。大阪高検公安部長だった三井環が、私憤もあったのだが、法務省の調査活動費、年間約6億円が情報提供者に払われずに、幹部たちの遊興費として使われていると、メディアに告発しようとした。

テレビ朝日『ザ・スクープ』のインタビューを受ける直前、三井は口封じのために微罪をでっち上げた大阪地検特捜部に逮捕されてしまうのである。

仮釈放も検察の横やりで取り消され、1年3カ月、刑期満了まで出てくることはかなわなかった。

当時の検事総長も法務大臣も「裏金は事実無根だ」とうそぶいた。三井は著書『検察との闘い』でこう書いている。

「こんな社会が定着すれば、不正を告発する人は誰もいなくなる。官公庁には隠れた不正がますます横行し、がん細胞のように増殖し、血税を食いつぶす。検察はますます不正義となり、自らの利権確保や保身により一層、傾斜して行くはずだ」