経営理念は「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」。ビジョンは、いまだ治療満足度が低い複数の疾患領域(カテゴリー)に対し新薬を継続的に提供することによって、世界市場で競争優位を確立するビジネスモデル(=「グローバル・カテゴリー・リーダー」)の実現だ。そのため、旧山之内が得意だった泌尿器、旧藤沢が得意だった移植免疫、さらにいまだ治療満足度の低いがんの3領域に、経営資源を集中させる。

「自社の研究開発をベースにして新薬のビジネスに特化しているのが、わが社の特徴です。私どもの規模で、資本とかリソースを分散させて勝つというイメージを、どうしても持てなかった。それで得意なところで勝負していこうと考えたのが、現在のモデルでございます」

この3~4年、「非常な勢いでオンコロジー(腫瘍・がん研究)の領域に投資をしてきた」。だから畑中は「この投資の成果を株主、マーケット、さらに我々の従業員に示していくことが、まず一番の私の仕事」と自身の役割を任じている。

「競争は一層激しく、スピードは速くなっている。私が、各部門長が、そして従業員一人ひとりが、与えられたミッションの中で、判断の質とスピードを上げていくことでいち早く成果に結びつける」

今秋からはマネジメント層を育てる教育研修を始める。全世界の拠点から毎年20~25人ほど選抜し、グローバルなアステラスとしてベストな判断について議論させる。畑中自身も指導するなど、経営者の近くで考えてもらうのが狙いだ。

新薬が医療現場まで送り出される確率は2万分の1といわれ、開発期間は平均で15年におよぶ。リスクは高い。

「新薬開発では、長期間の投資というリスクがあります。さらに、商品の性質上、人の生命に関わるというリスクも潜む。これらをどう最小化するか。両面でのリスクコントロールが私に求められる」

業界トップの武田薬品は、1兆円以上を投じてスイスの大手製薬会社の買収手続きを進めている。第一三共も08年に約5000億円でインドの後発医薬品大手を買収した。いずれも世界のメガファーマの後を追う戦略を取っている。

これに対してアステラスは、理の人・畑中の下、独自のニッチ路線を突き進むことに迷いはない。

※すべて雑誌掲載当時

(門間新弥=撮影)