神戸ルミナリエも地元は踏んだり蹴ったり
「観光公害」とは、このように観光振興が根源的に内包している周辺地域への外部不経済を表した用語である。我が国におけるこれまでの地域政策では「観光振興は地域にとって良いものである」という前提の元で無条件に進められてきた。
しかし実際は、観光振興は地域にとって根源的なコストであり、市民がその政策から得られる具体的な「利得」を実感できない場合は、その施策に対する社会的評価がマイナスに振れる。今回、京都で発生した夜桜のライトアップ・イベントの中止は、まさに上記のような観光振興に潜在的に存在する「コスト面」が如実に表面化した事例であると言えるだろう。
実は拙著「『夜遊び』の経済学」では、今回の京都で発生した事例に類似するものとして、1995年に神戸で始まった神戸ルミナリエの事例を紹介している。
クリスマスシーズンの街の大型イルミネーション・イベントは「夜の観光振興」事業として全国的に広がるメジャーな施策であるが、これらクリスマスシーズンの大型イルミネーション・イベントの「火付け役」となり全国の同様の施策のモデルケースとなったのが1995年に神戸で始まった神戸ルミナリエだ。
▼地元商業者などからの協賛金減少に伴う財政難
このイベントは、そもそも阪神・淡路大震災からの街の復興を祈念し、地域の経済振興を目的として始まったものである。1995年12月に行われた第一回目の開催では全国から250万人の観客を集め大きな話題となり、2004年には開催期間中の来場者数が538万人と過去最大の集客となった。近年では本イベントへの来場者数は最盛期から少し減退してきているものの、いまだ10日間程度の短い開催期間中に325万人を集客する大規模イベントとなっている。
一方で、実は本イベントの開催は長らく地元商業者などからの協賛金減少に伴う財政難に直面しており、2015年の実施からは開催日数、開催規模ともに大幅な縮小が行われている。このイベントが近年開催規模の縮小に向かったのには大きな理由がある。実はこのイベントは街中で大量の来場者をさばくために、近隣の商店街に大幅な交通規制を強いているのである。
イベントのメイン会場となる東遊園地には開催期間中は最寄りのJR三ノ宮駅から行くことはできず、訪問客は隣の元町駅から会場に向かうように指示を受ける。会場に向かう道は両側に鉄製のバリケードが築かれて一方通行とされており、来場客は誘導員の指示に従いながら会場までの約1.4キロをただ列に並んで歩くのみである。その道のりは混雑時には1時間以上にも及ぶといい、残念ながらそこに「街歩きの楽しさ」はない。