例外表示が及ぼす影響

消費者庁は、昨年11月の検討会中間報告を踏まえて、全ての加工食品に原料原産地表示を義務付けるとする「食品表示基準の一部を改正する内閣府令案」を提示した。現在、内閣府の「消費者委員会食品表示部会」に諮問され審議されている。

消費者の支持のもとに国産食材の消費を拡大し、国内農業の活性化を図ることは筆者も賛同するところであり、「国産」といった情報の提供には一定の効果も期待できる。しかし、加工食品は様々な原料を世界中から調達している。さらに使用する原料自体も加工食品である場合も多い。加工食品に対し生鮮食品と同様の原料原産地を正確に表示させることは、技術面、コスト面において難しく、義務化は現実的ではない。

このため政府は、従来は認められていなかった「例外規定」を設ける方針だ。ただ、現在、案として示されている例外規定は、食品表示の役割である「消費者が必要とする情報をわかりやすく伝える」という原点からかけ離れている。

原材料は輸入でも「国内製造」の謎

例外規定には大きく3つの括りがある。1つ目は「大括り表示」で、三カ国以上から輸入され産地が頻繁に入れ替わる場合は「輸入」とだけ示せばいい。2つ目の「可能性表示」では過去の実績や今後の計画を根拠に「A国又はB国」とすることができる。大括り表示と可能性表示は組み合わせることもでき、その場合は「輸入又は国産」と表示できる。

【例1】大括り表示の例。第9回 加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会(平成28年10月5日開催)の「資料1」より抜粋。以下同じ。【例2】大括り表示+可能性表示の例【例3】大括り表示【例4】中間加工原料の製造地表示【例5】中間加工原料の製造地表示

さらに、消費者の混乱を招きそうなのが「製造地表示」である。小麦粉、砂糖、澱粉、油脂、乳製品といった加工品の場合、その原材料のほとんどは輸入農産物だが、こうした加工品を中間原料として使っていても、製造地が国内であれば「国内製造」と表示されることになる。

食品表示の基本は、使用重量の一番多い原料について、使用量順に原産地を表示するというものだ。わかりづらい「例外規定」ができることで、消費者が手にした食品と表示された情報が必ずしも一致しないこととなる。

このように複雑な表示ルールが、消費者の理解を得られるか極めて疑問である。また、現状のルールでも加工食品で「国産原料使用」を謳うことは可能である。全ての加工食品を対象とするための代償として導入される例外規定は、「国内製造」や「輸入又は国産」等の曖昧な表示を氾濫させ、これまで積極的に国産原料を使用して消費者の支持を得てきた生産者や事業者の努力が報われないものになる心配もある。