「黒田バズーカ」をはじめとするアグレッシブな金融政策で、アベノミクスを支えてきた黒田日銀総裁。来春の任期切れを前に、市場では次期総裁人事に注目が集まりつつある。次期総裁の「大本命」は誰か。有力5候補の顔ぶれ、それぞれの政策スタンス、総裁人事決定の力学や官邸の思惑などから、三井住友アセットマネジメントの渡邊誠シニアエコノミストが「ポスト黒田」を読み解く――。

金融政策の大転換はあるのか

日本銀行の黒田東彦総裁が来年4月8日、岩田規久男、中曽宏両副総裁が来年3月19日に任期を迎える。黒田総裁の任期が残り1年を切る中で、市場では次期総裁を巡る観測が徐々に出始めている。白川前総裁から黒田現総裁に替わった際、黒田総裁は就任早々にアグレッシブな緩和を打ち出した。

当時、両総裁の名字をもじり、金融政策は「白」から「黒」へ大きく転換したとまで言われた。果たして、次の日銀総裁はどのような人物になるのか、日本の金融政策は再び大きく転換するのか。日銀総裁人事に関する観測報道が本格化するのはこれからと見られ、実際の人事案の国会提示は年末~年明けの可能性が高い(日銀総裁、副総裁人事は、政府が国会に案を提示し、衆参両院で承認する。黒田総裁の人事案の国会提示は2013年2月末)。

まだ先の話で、不確実要素もあるが、足元までの情報をQ&A形式で整理した。

Q1:現時点で、総裁候補として名前が挙がっているのは誰か?

各種報道では、

・財務省出身……森信親金融庁長官、丹呉泰健元財務次官、勝栄二郎元財務次官、本田悦朗駐スイス大使
・日本銀行出身……中曽宏日銀副総裁、雨宮正佳日銀理事、山口廣秀前日銀副総裁
・学者・エコノミスト……伊藤隆敏コロンビア大学教授、岩田一政元日銀副総裁

等が候補者として挙がっている。ただし、この中で本命に近い候補は、森、本田、中曽、雨宮、伊藤の5氏に絞られるというのが大方の見方である。

Q2:副総裁候補として名前が挙がっているのは誰か?

副総裁人事は、総裁とのバランスで決定される面があるため、予測は難しい。過去の例では、総裁候補に名前が挙がっていた人物が副総裁として国会提示されたケースもある。

ただ、重要なのは総裁・副総裁の出身のバランスと見られ、「財務省出身+日銀出身+学者・エコノミスト」という現在同様の組み合わせになる可能性が高いのではないか。白川方明前総裁時代は、白川総裁、山口廣秀副総裁の2名が日銀出身であったが、当時はねじれ国会で、参議院の第一党であった民主党が財務省出身者の総裁・副総裁就任に強く反対したためである。

政府が当初提示した総裁・副総裁人事案は、「武藤敏郎総裁(財務省出身)、白川方明副総裁(日銀出身)、伊藤隆敏副総裁(学者)」というバランス型であった。財務省出身の武藤敏郎総裁案が否決され、その後に提示された同じく財務省出身の田波耕治総裁案も否決、最終的には先に承認されていた白川副総裁が総裁に昇格した。