女性のほうが社会脳が発達している
【髙橋】女子力という言い方があるじゃないですか。一般的に女子力とは、料理ができるとか、愛想がいいとか。でもそれは女子というより、人間として能力が高いということです。それなら、男も女子力を身につけなくてはいけない。それを女性側だけに期待して、自分は何もしないというのは、人間としての能力に問題があるんじゃないかと思うんです。
【養老】人間の脳は、社会を相手にするか、自然を相手にするかで、使う脳が違うことがわかっています。女性は社会脳が発達していて、だから人づきあいが上手。一人で黙って考えて、数学の証明をしたりするのは、自然脳を使います。こちらは男性のほうが得意。もう一つわかっているのは、人間は生まれて2日目には社会脳になっているということ。つまり社会脳がデフォルト。自然脳を使いものを考えられるようになるのは、小学校の高学年になってからです。さらに言うと、猿の脳は、その猿の集団の大きさに比例して大きくなる。つまり、脳は社会的に使われているんです。
――社会脳が発達している方が組織の長になればいいのでしょうか。
【養老】大事なのは、社会脳も自然脳も人間に備わっていて、どちらが暴走してもいけない、ということ。1986年に、アメリカのスペースシャトル「チャレンジャー号」の事故がありました。あの日、天気予報などから、自然脳が強い技術系の人間は事故が起きる可能性を予測していた。でも社会脳が強い広報出身のトップが強行した。社会脳が自然脳を振り回した例です。最近もマンションの杭が地盤に届かないという事件があったでしょう。「長い杭を取り寄せていたら納期に間に合わない」というのが、社会脳の言い分。断固として「長い杭が来るまで俺は仕事をしない」と言い張る自然脳が必要でした。こういう問題は、家庭にも会社にも、どこにだってあります。
――自然脳が強い夫と社会脳が強い妻が補い合わないといけない。
【髙橋】そうだと思います。私が『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』という本の原稿を書いていたとき、妻に「ゴロって何?」と聞かれた。ゴロはゴロだろう、と私は思うんです。だけど、妻の疑問のおかげで、野球とは何かあらためて考えさせられた。私からすると超越する脳で、やっぱり妻の話を聞いたほうがいい。刃向かったりしたら損だと思います。
【養老】そうに決まってる(笑)。
1937年、神奈川県鎌倉市生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。1989年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。『バカの壁』(新潮新書)はベストセラーに。大の虫好きとしても知られている。『唯脳論』『「自分」の壁』『虫の虫』など著書多数。
髙橋秀実
1961年、神奈川県横浜市生まれ。東京外国語大学モンゴル語学科卒。ノンフィクション作家。『ご先租様はどちら様』で第10回小林秀雄賞、『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』で第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。著書に『男は邪魔!「性差」をめぐる探究』『損したくないニッポン人』『人生はマナーでできている』など。