演出家・作家としての第一歩を踏み出したのは2000年。“プロデュースユニット”「劇団、本谷有希子」を立ち上げ、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』を上演した。

初期の頃からスタッフの一員であるマネジャーの寺本真美は、当時から彼女が「磁場みたいに引き付けられる、同性としてどきどきする存在」であったと語る。以後、小説と演劇を両輪に活動を続ける彼女は、06年には『遭難、』で第10回鶴屋南北戯曲賞を最年少で受賞、小説『生きてるだけで、愛。』では芥川賞候補に。『腑抜けども――』の映画化などを含め、その活躍は〈演劇界&小説界を股にかける、ゼロ年代最強のおんなのこ〉と「ダ・ヴィンチ」(08年4月号)で特集が組まれるほどだ。

本谷有希子が描く物語には、自らの夢や欲求と現実の間で懊悩、独白、妄想する人物が多く登場する。自身の才能を疑わない自信過剰な女、身勝手さの権化のような教師、愛情を欲しながらその愛情そのものを恐れる男……。

「“清濁併せ呑む”という言葉が好きなんです」と彼女は話す。

「きれいなものと濁ったもの。そのどちらかだけを手に入れるのは難しい。汚いものの中にある本当のことが、すごくきれいに見えたりします」