欧米では、グローバル化が国民の分裂を生み、社会を不安定にすることへの理解が深まってきました。資本主義の最終局面で、今まで以上に資本がなりふりかまわず「蒐集」を行い、決して人々を幸せにしないということが明らかになったからです。
その結果、グローバル化に背を向ける政治的な動きが先進国のなかで急速に広がってきています。イギリスのEU離脱しかり、トランプ大統領の誕生しかり、です。つまり、これはグローバル資本に対して、社会を「閉じる」という選択です。
しかし、それは国家の形態が、ドイツや日本といった今の国民国家のままでいるということではありません。国民国家という単位は、もはや小さすぎて、グローバル資本に対抗することができません。テロに対抗することも、一国単位ではなく、より大きな単位で取り組まなくては、不可能です。つまり、現状の国民国家を超えた単位のシステムを構想しなければなりません。それが本書で示した「地域帝国」という構想です。
アメリカもEUも「閉じてゆく帝国」
具体的には、EUのような規模をもった地域帝国が、定常型の経済をもった「閉じた経済圏」を構築することが、資本主義の最終局面という難しい時代を斬りぬける鍵なのです。実際、EUの統合は各国の主権をおさえつつ、統合を強化する「帝国」化でした。EUは、総人口は約5億人。そのなかで、エネルギーも食糧もほぼ自給できます。闇雲に経済成長を追い求めさせしなければ、安定した市場経済を維持していくことができるのです。さらに好都合なことに、周囲を自然の砦で囲まれています。つまり、北は北極海、西は大西洋、南はサハラ砂漠があり、外敵の侵入を防ぐことができます。南東だけが空いていて、中東からの移民問題で現在は悩まされていますが、やがてトルコが力をつけて「帝国」となり、中東が安定すれば、その問題も解決するでしょう。
一方、アメリカにはイギリスとの「米英同盟」を組んで帝国化していくという戦略があります。人口も両国を合わせるとおよそ4億人にのぼります。これまでに築き上げた巨大な富もあり、エネルギーの心配もありません。おそらくカナダも加わるでしょう。
こうした動きと逆行しているのが中国です。最近、習近平国家主席が打ち出したアジアとヨーロッパを結ぶ経済圏構想「一帯一路」は、中国にとってのフロンティア拡大であり、覇権主義に走っていると言っていいでしょう。ただし、そのためなのか、軍備にしても工業生産力にしても間違いなく過剰です。大国意識の発露かもしれませんが、どこかで修正を余儀なくされます。