青春は若者だけの特権じゃない

宮田の初陣は、熊野ジムにとってもOFBへの初挑戦だった。宮田は減量せずにウェルター級(64~67㎏)で出場し、1ラウンドKO勝ち。2カ月後に第2戦を戦い、今度はスーパーライト級(62~64㎏)で出場してまたしても1ラウンドKO。夏の後楽園大会で判定勝ちすると、それに次ぐ4戦目で初のタイトルマッチを組むことになった。宮田は階級をひとつ下げて、空位だったライト級(60~62級)王座決定戦に挑んだ。結果は3ラウンドKO勝ち。この時の体脂肪率はわずか7%だったというから、いかに厳しいトレーニングを積んだかがわかる。

その後宮田は、スパーリング大会(OFBとは無関係)で眼窩底骨折という大けがを負って入院し、会社からボクシングをやめるよう勧告されたが、「最後の試合にする」という約束で初の防衛戦を戦い、見事1ラウンドKOを勝ち取っている。

「本音を言えば、私、別の階級でもうひとつベルトが欲しいんです。血が騒いでいるんです。プロにはなれませんでしたが、OFBのおかげで青春してるんだなって思います。青春は若者だけの特権じゃありませんよ」

(上)熊野ジム所属 宮田伸広氏(OFBライト級関東チャンピオン)(下)熊野ジム熊野会長(撮影=永井浩)

「顔がパンパンでは出勤できない」

OFBは宮田のようなアマチュア・ボクサーの目標になると同時に、熊野ジムのようなフィットネス・ジムにとっても重要な意味を持っている。

ボクシングジムが日本プロボクシング協会(JPDA)に加盟するためには、ジムの会長の過去の戦績に応じて加盟金を支払う必要がある。加盟金は過去に大きなタイトルを取った選手ほど安く、タイトルが小さいほど高く設定されている。そしてJPDAに加盟しないと、プロボクサーを養成することはできないのだ。

プロ加盟しているジムの場合、プロ選手の育成がジム全体の大きな目標になるが、フィットネス・ジムの場合、個々の会員の健康増進が目標になり、それ以外に目標を設定するのは難しい。熊野会長が言う。

「もちろん、ボクシングにはいろいろな楽しさがあるのですが、苦しい練習と減量に耐えて試合に出場して勝った瞬間の達成感、開放感は格別です。一度味わうとやめられなくなります。そういう意味で、会社勤めの人でも安全に試合ができるOFBは、会員のモチベーション維持に最適なのです。顔をパンパンに腫らして出勤はできませんからね(笑)。熊野ジムは、今後もOFBの世界で存在感を増していきたいと思っています」

熊野会長は、いずれプロ加盟を果たしてプロボクサーの養成もしたいと言うが、厳しさと楽しさは両立できることを宮田ジム時代に学んだという。その言葉通り、熊野ジムにはアットホームで濃密な人間関係の中で、一人ひとりが自分の限界に挑戦している印象がある。私の知る「フィットネス・クラブ」とは大きく違う。