【丹羽】付せん紙の方には「アグリツーリズム」というキーワードも挙げておられました。
【鈴木】海外からのお客さまには必ず田んぼを見てもらうようにしていて、とても好評なんです。そこにも注力することで、国内だけではなく海外にもファンを増やしていきたいですね。この飛び出した部分は、海外向けのヒット商品というということかもしれない。「一ノ蔵」という製品名は海外の方には発音も難しいので、分かりやすい商品を。
【丹羽】わかりました。では、ブロックを全体から眺めたときに、そこから伝わってくるメッセージとはなんでしょうか?
【鈴木】やはり、最初に目が行った「農業部門をもっと伸ばそう」ということが一番ではないかなと思います。僕が周囲からの異論もあったところ、試験的に始めたものですが、もっと本格的にやりたい。
【丹羽】この部分が蔵と同様、2階建てになっていますね。それも拝見していて気になったポイントです。ブロックには何らかの意味がある、メッセージが込められているというのが、このセッションでの考え方なんです。そこにも何かあるかもしれません。
【鈴木】父がよく話していたのですが、海外で本当の意味で日本酒が国際化するためには、現地でそこに暮らす人が、原料から生産してくれるようにならなければなりません。農業部門・海外というところに僕がブロックを積み上げたのもそういうことかもしれませんね……。国際化のお手本とも言えるワインの世界でも「ワイン造りは土作りから」と言います。日本酒の国際化のためにも、六次産業化やアグリツーリズムにヒントがあるのかもしれない、と思いました。
未来へとつなぐバトン
【丹羽】ブロックから一ノ蔵の未来のイメージが見えてきました。では、バトンをどうつないでいくか? というまとめに入りたいと思います。
【鈴木】一ノ蔵は四つの酒蔵が一つになって、持ち回りで社長を務めてきました。いま、私たち第2世代が経営を担っていて、次の世代――わたしたちの子どもたちがそろそろ、一ノ蔵に加わってきてくれているというタイミングですね。
父親たちは、厳しい環境のなか、赤字の会社同士が集まって会社を作るという挑戦をしました。国の政策にも挑戦する反骨のエネルギーにもあふれていたと思います。そういう姿を見てきましたので、正直われわれ第2世代はプレッシャーや抵抗を感じるところもありました。どこに行っても父親たちの足あとだらけ。彼らを超えることはできないだろう――僕自身、一ノ蔵を継ぐことに反発して家を出て、別の仕事をしていたこともあるくらいですから。
ただ、実際に継いでいろいろやっているうちに、だんだん開き直ってきた部分はあるんですね。俺たち2代目にそんなに期待しないでくれと。江戸幕府だって、室町幕府だって3代目で花開いたじゃないかって(笑)。
【丹羽】確かに(笑)。
【鈴木】バトンをつなぐことが僕たちの役目なんだと。気負うことはないじゃないかと。先ほどの10年後のイメージも、おそらく実現しているのは僕たちの子どもたち、3代目なんですよ。そのためのベースを僕たちは作る。土地を耕していく、ということですね。そして彼らに託せるようになったら、なるべく早く引退したいと思います。
海外に出るために必要なこと
【丹羽】副会長に、ということですね。
【鈴木】期待しすぎてもかえって良くないとも思いますが、蔵人になりたいと言って入社してきた彼女たち3代目が、一ノ蔵をどんな風に花開かせてくれるのか、楽しみですね。
【丹羽】そのベースを整えるためには、具体的にはどのようなことをすると良いと思いますか? またやり方を変えていく方が良いと思う事はないでしょうか?
【鈴木】僕は英語ができませんが、子どもたちにはしっかりと身につけてもらってあります。そして、変えなければいけない点としては、海外営業ができる人を増やしたり、現地駐在を置いたりということをやっていきたいですね。あと、商品のラベルも、今は漢字だけで、日本人しか読めない。これも英語表記を加えるなど改良が必要です。海外向けヒット商品を作るには、という話にもつながりますよね。
農業については、まだ正直言って具体策はすぐに出てきませんが、生産効率を上げるためにも耕作放棄地の借り上げなど、田んぼの面積は増やしていきたいのです。ただ、こちらは国の政策とも絡む部分もあり不透明です。今年から減反政策がなくなるという話もありますので。ここは引き続き注視・注力していきたいと考えています。彼らの世代までには、このあたりの環境も今よりは整っているはずでしょう。
【丹羽】わかりました。一ノ蔵がこれからどのようにバトンをつないでいくのか、楽しみにしたいと思います。
国際基督教大学卒業、英国サセックス大学大学院修了後、野村総合研究所に入社。エグゼクティブコーチングと戦略コンサルティングを融合した新規事業IDELEAに参画。2015年4月、人と社会を大切にする会社を増やすために、コンサルティング会社、Ideal Leaders株式会社を設立し、CHO (Chief Happiness Officer) に就任。上場企業の役員・ビジネスリーダーをクライアントとしたエグゼクティブコーチングの実績多数。社員のハピネス向上をミッションとするリーダー「CHO」を日本で広めることを目標としている。