(1)トランプ政策の影響の見極め

(1)に関し、まずはこれまでの米通商政策の動きを確認する。市場では当初、米国が過度に保護主義的な姿勢を示すのではないかとの警戒もみられたが、2月の日米首脳会談で「日米経済対話」という新たな枠組みが設定され、4月に初回の会合が行われた。その結果、今後は、貿易・投資のルール・課題に関する共通戦略、経済・構造政策分野での協力、分野別協力の3項目で議論が進むこととなった。少なくとも為替問題で日米が激しく対立する事態は避けられており、その意味では日本企業および日本株への影響は今のところ限定的である。ただ米国は医薬品、農業、自動車の各分野で日本に市場開放を求める可能性が高いとみられ、年内に予定されている2回目の会合における具体的な議論が注目される。

この他、米景気対策にも注意が必要だ。トランプ米政権は5月23日、2018会計年度(2017年10月~2018年9月)の予算教書を発表し、大幅減税やインフラ投資の財源として、今後10年間で3兆5,630億ドルの削減を提示した。しかしながら削減項目をみると、低所得者向け医療保険(メディケイド)の見直しなど、困難を伴うものが多く、大型減税やインフラ投資についても詳細は示されていない。また実質GDP成長率について、2021年に前年比+3.0%に達し、それ以降2027年まで3.0%成長が続くという前提を置き、財政収支は10年間で均衡するとしているが、現実味がなく単なる数字合わせという印象が強い。

そのため今後は、米議会における予算審議の行方を見守る必要がある。大型減税やインフラ投資への期待は市場に残っているため、8月の夏季休会前に予算決議案がまとまるか否かが焦点である。日本企業への影響を見極める上では、大型減税などの景気対策の規模や、財源としての法人税の国境調整について最終的な取り扱いを確認することがポイントになる。弊社では、減税は10年間で2.4兆ドル、インフラ投資は5年間で2,750億ドルを想定しており、実施されれば米国の経済成長率は0.4~0.5%押し上げると考える。この場合、直接的・間接的に恩恵を受ける日本企業も多いと思われる。

「ロシアゲート」への懸念も

なお市場では、米トランプ政権とロシアとの不透明な関係を巡る疑惑「ロシアゲート」を懸念する向きもみられる。これについては、5月17日に特別検察官に任命されたロバート・モラー元米連邦捜査局(FBI)長官の捜査などを通じて、トランプ米大統領の司法妨害疑惑などに関し、決定的な証拠が出てくるか否かが注目されよう。仮に新たな物的証拠がみつかれば、大統領弾劾の動きが強まることも考えられる。ただし大統領の弾劾には、下院での過半数による弾劾追訴の決定と、上院での弾劾審理で出席議員3分の2による有罪判決が必要である。そのため多数議席を占める共和党が、トランプ米大統領を見放さない限り、今の議会で弾劾が成立する可能性は低いと思われる。

また仮に弾劾成立となった場合は、ペンス米副大統領が大統領に昇格することになる。政治経験が豊富なペンス米副大統領の方が、議会との関係が良好であるため、政策をスムーズに遂行できるとの見方もある。そのため、ロシアゲートに関する決定的な証拠の有無に関わらず、市場はこの問題を次第に消化していくことが予想され、また米政府と米議会が予算審議を重視する限り、景気対策への影響も限定的と思われる。

ロシアゲートで混乱がなければ、7月にも米予算決議案で景気対策の概要が見えてくることも想定される。トランプ政策の日本企業への影響については、その頃に一応の見極めができるようになろう。米共和党議会は来年の中間選挙を見据え、何らかの形で早期の景気対策を打ち出すことは十分に考えられるため、これらが日経平均株価の押し上げにつながるのではないかとみている。