初めての長期ビジョンは、まさに人に話したからこそ実現できました。長期計画策定セミナーに参加したとき、最初に目標の店舗数を10店舗と書いたら、渥美先生から「少なすぎる」と突き返されました。ほかの人は壮大な目標を書いて続々と帰っていく。いいかげんいやになって、「30年で100店舗、1000億円」と書きました。早く帰りたくてでっちあげた、その場しのぎの適当な目標です。

ところが、それを社員に見せて毎日話していたら、自分でも本気で信じるようになって、2003年に達成できました。社員に繰り返し話していなければ、きっと絵に描いた餅のままで終わっていたはずです。ちなみに「目標は額に入れて、みんなの前に飾れ」と教えてくれたのも渥美先生です。

教えに反して出店して怒られる

渥美先生から教わったことはほかにもたくさんあります。ただ、教わった理論をすべてそのまま現場でやったわけではありません。先生は、「店は3階建てまで。それ以上、高い店をつくるな」とおっしゃいました。「店を見上げなきゃならないような店舗はお客様にとって不便だ」という理由からなのです。

でも、98年の神奈川県初出店の南町田店は6階建てでした。教えに反していることはわかっていましたが、土地が狭くて上に伸ばさざるをえなかったのです。建設途中で先生にバレたけど、「いまやめると違約金で会社が倒産してしまいます」とごまかして乗り切りました。

いざオープンすると、目標の2倍も売れます。ホッとして自慢げに渥美先生に報告したら、褒められるどころか怒られました。「繁盛しすぎると競合が1~2階建ての買いやすい店を出してきて、すぐにダメになる」というんです。そこで私は、慌てて南町田店の周囲に店を出しました。競合が来る前に自分で店を出して、そのエリアのお客様を囲い込んでしまったのです。

1店舗ごとに坪当たりの年間売上高という指標があって、200万円とか闇雲に高ければいいわけではないのです。競合を刺激しない適正な水準があることを身をもって学びました。チェーンストア理論は本当に奥が深い。