マニアックに「コーヒー」にこだわる
サザコーヒーは1969年、創業者で現会長の鈴木誉志男氏が国鉄(現JR)勝田駅前に「且座(さざ)喫茶」(当時)の名前で開業した。「且座は『座って茶を楽しみましょう』という意味」(同氏)で、中国の僧で臨済宗の開祖・臨済義玄の言葉だという。20代から40代まで茶道を学んだ鈴木氏が、その思いを店名に込めた。現在は茨城県内を中心に13店を展開し、東京都内のエキュート品川、二子玉川ライズといった商業施設にも出店している。
多店舗展開する現在でも、徹底してコーヒーにこだわるのが特徴だ。たとえば本店でメニューを開くと、「お勧め ネルドリップコーヒー」「フレンチプレスコーヒー」「自信作、サザのブレンド」「サザ契約栽培コーヒー」「逸品揃い。世界のコーヒー」と書かれた20品以上のコーヒーメニューが並ぶ。店で販売するコーヒー豆も人気で、自家用・土産用に買うお客も多い。次回紹介する「徳川将軍珈琲」「五浦(いづら)コヒー」など独自開発した商品もある。
開業当初、喫茶店店主(マスター)のバイブルと言われた『月刊 喫茶店経営』(柴田書店)を愛読していた鈴木氏は、同誌に載った銀座の名店「カフェ・ド・ランブル」(1948年創業)店主・関口一郎氏(御年100歳を超えた業界最長老)の記事で「自家焙煎」を知り、興味を持つ。それ以来、コーヒー豆の栽培から焙煎まで独自に学び続け、海外のコーヒー生産地に足を運んで店の味を高めてきた。本店にはドイツ製と米国製の大型焙煎機も備えている。
こだわり方はマニアックだが、店の流儀を押し付けることもなく、来店客は思い思いに過ごす。コーヒー以外のドリンクも充実し、自家製ケーキやパンメニューもある。ドリンクとフードを頼むと1000円を超えるので安くはないが客足は絶えない。本店にはテラス席もあり、気候のよい日には特等席となる――と、店の特徴を紹介したのには理由がある。
昭和時代から、コーヒーを探究する喫茶店マスター(鈴木氏もその1人)はいたが、多くの店は残っていない。理由はさまざまだが「コーヒーの蘊蓄にこだわり過ぎた一面もあった」(フードコンサルタント)という意見もある。専門的に深めるのは大切だが、メニュー内容を広げて居心地を高めないと、多くのお客に長年支持される店にはならないのだろう。
同社は南米コロンビアに直営農園「サザコーヒー農園」も持っている。UCCやドトールなど大手はともかく、地方の個人店では珍しい。アンデス山脈のふもと、コロンビアのポパイアン地区で直営農園を始めたのは1998年で、まもなく20年となる。
一般にコーヒーの味は「豆の種類」「生産方法」「収穫」「焙煎」「淹(い)れ方」で決まる。鈴木氏によれば「豆はティピカ種とブルボン種をシェイドツリー(陰をつくる樹木)の近くで栽培し、収穫したら天日干しをするのが理想」だという。その理想を満たすために当地を選んだ。2016年は良質のコーヒー豆を多く収穫できたが、土壌や品種にこだわり、生産も効率性を求めずに減農薬で栽培するため病虫害に弱く、これまで2回全滅したという。
自社農園以外にも「グアテマラのアンティグア」「エルサルバドルのコルダ」「北スマトラのマンデリン」「コロンビアのグロリアス」など、世界各地からコーヒー豆を買い付けており、現在は息子で副社長の太郎氏を中心に各国を回る。大人気銘柄「パナマ ゲイシャ」の優勝豆(同国品評会で優勝したコーヒー豆)は、毎年オークションで高価格で落札し、特選珈琲として販売する。若い頃は父に反発した太郎氏だが、東京農業大学卒業後、グアテマラのアンティグアにあるスペイン語学校、コロンビアの国立コーヒー生産者連合会の味覚部門「アルマ・カフェ」でも学んだ。そのためスペイン語も堪能で外国人の友人・知人も多い。スタバやUCCも同様の活動は行うが、経営者が現地に直接足を運ぶというのは個人店の強みだ。太郎氏は話す。
「コーヒーは『手間ひまをかけて、おいしくする』をモットーに、きれいな水で洗い、味と香りにこだわってきました。スターバックスの豆も高品質ですが、当社の豆はさらに品質が高い。それをネルドリップで抽出し、苦みのなかに感じる甘みも重視しています。店舗数が増えたのでバリスタ(コーヒー職人)育成もしていますが、抽出に微妙な個人差が出るので、それを高いレベルで平準化することが今後の課題です」
社員の本間啓介氏が昨年9月に実施された「ジャパンバリスタチャンピオンシップ2016」で準優勝に輝くなど、人材育成も花開きつつある。