【荻野】お金や権力を持っていても、幸せではなかった。

【ドゥティ教授】そうです。なぜなら、そのときの私は人にどんなふうに期待されているかばかり気にして、結局、自分のことしか考えていなかったのです。貧しい家庭で育ったので、お金があれば幸せになれると信じていました。しかし、そうではなかった。

【荻野】そこで、ルースの教え、つまりマインドフルネスを再び振り返ることになるわけですね?

【ドゥティ教授】少年だった私は、ルースの言葉を完全に理解していなかった。理解していたら、あんなに傲慢に多くを求めなかったはずです。リーマンショックで全財産を失った後、彼女が言っていたことと過去の出来事を照らし合わせながら、システマチックに自分の人生を振り返りました。そして、私に抜け落ちていたことは、「心を開く」ということだと気づいたのです。

CCAREの理念に共感したダライ・ラマは多額のお金を寄付。ドゥティ氏考案の「心を開くための10カ条」を表した数珠は、慈善事業家からの贈り物。

【荻野】マインドフルネスで言えば、他者への共感を高める。大切な人にも、嫌いな人にも同じように無条件の愛を送るということ。

【ドゥティ教授】ええ。私は財産は失いましたが、そのかわりに、大事なものを受け取ったんです。それは「人生の意味」です。他人に奉仕し、思いやりを持って接することこそが大事なことだと、ようやく気づきました。

【荻野】それから教授は、医師として、医療が行き届いていない地域の人々を助ける活動をされるわけですね。その時期が、人生の再スタートだったと言えるでしょうか。マインドフルネスが、人生の方向性を変えたと。

【ドゥティ教授】そうですね。ルースの教えを振り返らなかったら、あのとき立ち直れなかったし、いまの私はないでしょう。しかし、気をつけなければいけないのは、マインドフルネスだけで、すべてのことが解決するわけではないということ。そして、他者への思いやりだけではなく「セルフコンパッション」を忘れないことです。

【荻野】自分に対して優しくする、ということですか?

【ドゥティ教授】はい。自分に対して否定的でネガティブな感情が起こっていたら、その部分に優しく接する。マインドフルネスは、自分の思考に対して批判や判断をしない状態ですが、さらに、自分の感情や考えに思いやりを持つ。これができれば、他者に対しても同じように接することができます。