それでも「6000メートル級の山にプラプラと遊びに行った」というから常人離れしている。いまでも毎朝、腕立て伏せと片足スクワットを100回ずつ行い、休日には数キロ走ることもある。
「遠征を繰り返していたような、若いころの記録にはもう挑めないでしょう。それでも、重箱の隅をつつくような記録更新はまだ狙える。退職後には人とは違う登り方を考えてチャレンジしたい」
勤務した6社のうち、5社目の日本企業ではインドでの工場建設を手がけた。その際、現地事務所が襲撃され、3人の従業員が誘拐された。周囲が撤退を促すなかで、「ここで帰るわけにはいかない」と現地にとどまり、無事計画を成功させた。「同級生と比べると、傍流ばかりを歩んできた」と自身のキャリアを振り返るが、「未踏への挑戦」というこだわりは仕事においても同じだ。
「8000メートル級の踏破には、素人目には『これは無理だ』と思うような状況にも突っ込む覚悟が必要です。覚悟という意味では、仕事でもディシジョンを下して、チャレンジすることには自信がありますし、ひるみません。極限状態(池谷's EYE【J】)での経験が生きるんでしょうね」
池谷'sEYE
【I】リスクを負うとモチベーションは高まる。そこから抜け出たときに快感だからです。いわば「逆ごほうび」。自分を追い込むほど、達成感も大きくなります。
【J】並外れた危機を打開した経験をもつ人は強い。「あのときに比べたら」と状況を相対化できるからです。また「幽体離脱」のように自分を外から眺める視点をもつ人は成長します。
(坂本政十賜、市来朋久=撮影)