会話は人間の豊かな感性も含めて伝達する

【三宅】音声学の卒業生は、「モノのインターネット」と言われるIoTの分野へ就職する人が多いと聞いたことがあります。具体的には、音声分析、音声認識などですが、彼らが大学や大学院で学んだ知識や知見により、企業の現場での研究も、より盛んになっていくのでしょうか。

【松坂】私は、その分野の専門家ではありませんが、研究が進んでいることは明らかな事実です。そういう情報はたくさん入ってきます。将来、英語を学ぶ人の発音の評価などをIoT技術で自動化できれば面白いと思っています。

【三宅】最近は電子辞書で発音練習している若い人も多くなっていまして、自動翻訳機の技術の進歩が『ドラえもん』に出てきた「ほんやくコンニャク」さながらの精度の向上だと話題になってもいます。

すると「もう今さら英語なんか学ばなくたって、それで済むじゃないか」といった英語学習不要論や英語教師不要論なども出やすくなります。先生は音声学の見地から、また、英語教育の専門家として、そんな時代が来ると思われますか。それと人から学ぶことと、機械から学ぶことの違いをどうお考えでしょうか。

【松坂】私は言葉と数学の数式と比較して説明しています。その2つが決定的に違うのは、数式は感情を伝えません。たとえば、皮肉も言いません。言葉によるコミュニケーションというのは、人間の豊かな感性を含めて相手に伝達していくものです。少なくとも当面は、AI、すなわち人工知能ではすべては扱えないと思います。そこに人間の出番と役割があるのではないでしょうか。

『対談(2)!日本人が英語を学ぶ理由』三宅義和著 プレジデント社

【三宅】教育界や産業界では、グローバル人材育成ということが盛んに言われます。世界と伍していける若者をもっと増やしていこうという機運がありますね。そこで、松坂先生が考えるグローバルな人材とは、どのような人をイメージしていらっしゃいますか。

【松坂】日本社会にだけ暮らしていると、狭い常識を拠り所として判断したり、コミュニケーションしたりするものです。しかし、自分が慣れ親しんだ社会を一歩出ると、その常識が通用しない人々に囲まれるわけです。そのときに、冷静に自分の立場を説明し、場合によっては、理路整然たるディベートもできる。そうして相手の理解と信頼を勝ち取れることがグローバル人材の1つの条件だと思います。

そのための有力な手段が英語など外国語の能力です。もちろん、英語を勉強していると、わからないことが後から後から出てきます。これに圧倒されたら負けです。外国の言葉なのですから、それで当たり前。わかることが増えていくことに手応えと喜びを見つけ出してほしいと思います。

【三宅】本日はたいへん内容の濃いお話を聞かせていただきありがとうございました。

(岡村繁雄=構成 澁谷高晴=撮影)
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