発音は実力が一瞬にしてわかる

三宅義和・イーオン社長

【三宅】私どもイーオンでも英語学習者に対して「発音、大事ですよ」と言います。その理由として、自分がきちんと発音できる単語やセンテンスは、自分の耳がしっかり聞けるのです。

ある企業研修の際、1人の受講生が「current」、カレントという単語を「キューレント」と読んでいました。そう発音しているかぎり、正しい発音は聞き取れませんし、意味も通じない。だから、イーオンでは音読トレーニングを非常に重視しています。

【松坂】いいですね。

【三宅】音読でトレーニングしている、発音もさることながら、聞き取る力がつき、TOEIC L&Rテストのスコアなんかも、ポンと上がるわけです。それが、モチベーションアップにつながりますね。

【松坂】モチベーションにつながるというのは、いい視点ですね。なぜかというと、発音というのは実力が一瞬にしてわかるのです。もう3秒ぐらいでわかる。語彙力や文法力はそうはいきません(笑)。

つまり、発音に関しては、われわれ学習者はいつも裸でいるような状態です。だから発音がいいと、自分の英語がうまいという印象を聞き手に与えることができます。当然、モチベーションアップにつながります。

逆に教師の立場からすれば、生徒や学生から信頼を得ないといけません。信頼を得られれば、生徒の学習意欲も高まります。そういう意味では、「あの先生、すごく単語を知っている」というのも信頼に値するでしょうが、やはり一瞬でわかる発音は大事です。

【三宅】話を次に進めますが、次期学習指導要領の告示が、今年3月に迫ってきました。小学校3年次から外国語活動を行い、5年次からは教科になるということで大変にインパクトがあります。大学入試も2019年でセンター試験がなくなり、英語科目は読む・書く・聞く・話すという4技能重視のテストになり、大学のカリキュラムも変わろうとしています。

メディアの報道は、ともすれば、そうしたテストや授業に目が向きがちですが、本当に大変なのは教える側でしょう。従来の、ただ読み、書き、文法ということではなくて、コミュニケーション重視の方向であるとすれば、コミュニケーションの一つの手段、話すということで、教師の発音が重要になってきます。

特に小学校の先生の場合は、英語の指導法を学んでいません。だからこそ気になるのが発音です。私どもの教室でも、英会話を学ぶのに「きれいな発音の先生に習いたい」という保護者の声は依然として強い。当然、学校の教諭も発音を磨くべきだと考えますが、そのときに英語音声学が、どのような貢献ができるとお考えですか。

【松坂】やや我田引水のようですが、英語音声学という学問は、非常に能率良く発音の特徴を学ぶのに最適です。私は、これをある程度やっていただくことによって、とても小学校の教員の発音は向上すると思います。まだ、そういうものを体系的に研修していただくようなシステムがありません。それがすぐにでも必要となるでしょう。

英語を野球の能力に置き換えれば、発音や語彙などは、走る力、投げる力、打つ力など、個別の能力に当たると思います。どれが一番大事かは特定できませんが、発音は比較的目に見えやすいものです。野球のコーチが目に見えやすい技術について知識や能力が乏しいと選手からの信頼はすぐに低くなるでしょう。やはり、発音は大切だということになります。

英語音声学の貢献については、積極的貢献と消極的貢献があると考えます。積極的、つまり目に見えるという意味においては、音声学が学習者の発音を向上させ、コミュニケーション力を高められるということです。一方、消極的、成果としては見えにくいのですが、音声学によって、発音学習の能率が上がり、さほど時間をかけなくても基本的な発音がマスターできるようになります。こうして浮いた時間をほかの勉強に振り向けてもいいのではないでしょうか。