報道の元となった2つの政策提言
度重なる報道を無視するわけにもいかず、林野庁もついに重い腰を上げて、外国資本による森林買収の実態調査に乗り出した。しかし、結果は空振りのまま現在に至っている。
当時、林野庁森林整備部の計画課で調査を担当した間島重道氏が、調査の経過を説明する。
「大手メディアで騒がれたので全国都道府県を調査したのですが、報じられているような“水狙い”の事実はどこからも出てきませんでした。大手メディアではそのように報じられていましたが、どうも理解できません(笑)。立木を木材とするにはコストがかかりますから、木材が目的であれば流通市場で安く買えばよいわけです。投資目的であれば、むしろ銀座の一等地のほうがいいでしょう? もし大量の水を中国に運ぶとしたら、莫大なコストがかかります。そもそも、山林を買ったからといって、どうして水が入手できるのかがわからないのです。また、仮にそうしたことがありえたとしても、問題は誰が山林の所有者かということではなく、所有者が山林の整備をきちんとしてくれるかどうかですから……」
適切に伐採され手入れされた山林には、地面に陽が差し込み、下草が生える。土を盛り上げて生長する下草は地面を耕し、それによって雨水は地中に浸透しやすくなる。土に染み込んだ水と山肌を滑る水は、河川や地下に流れ込む。河川から海に流れ出た水は蒸発して雲となり、風に乗って移動した後、再び雨となり地表に降り注ぐ。
要は、山林は水の循環過程であり、雨水を濾過する“媒体”ではあっても、水がそこに多く蓄積されるわけではないのだ。
「中国資本による水狙いの山林買収」という伝聞報道の背景は何か。多くの報道の情報源は、民間シンクタンクの東京財団がまとめた「日本の水源林の危機」(09年1月)と「グローバル化する国土資源(土・緑・水)と土地制度の盲点」(10年1月)という2つの政策提言と思われる。昨年の提言では、三重県大台町や長野県天龍村などで中国資本が水源林を視察した事例が報告され、今年の提言では追加事例を報告しつつ、「明らかに木材とは関連のない山林原野の場合、森林買収の動機は『水』ではないかとも見られている」と推測している。
しかし前述のように、水源林とはいっても、山林が媒介する水は河川や地下水へと流れ出る。河川の水は所有できず、地下水の多くは平地から汲み出され、山林所有者には手が出せない。
提言のまとめに携わった研究員の一人は、こう説明する。
「提言公表後、大手メディアの問い合わせが殺到しました。ご質問の件は足で調査したものですが、実態の把握が難しいのです。それに関する説明は、第三弾を年内に出す予定ですので、それまでお待ちください」