▼満足度その2「安定性」

開業して今年で37年たち、国内に1100店を超える店舗があると、これまで1度もドトールに行ったことがない大人は少数派だろう。現在、ドトールのデザートメニューには、「大人のチョコレートケーキ」「ミルクレープ」「かぼちゃのタルト」などがある。いずれもドリンク付で600円以下だ。小腹需要に対応しており、財布にもやさしい。正直言って、さまざまなスイーツを味わってきた現代の消費者が、ドトールのデザートに「いままでに食べたことのない味」を期待するとは思えない。でも「ドトールならそれなりの味だろう」という意識がある。

収入が伸びない現代、消費者はふだん使いで外食店を利用する時に「千円札を大切に使う」意識も高い。取材先の外食チェーン店に確認しても、その傾向は強まっていると話す。小腹を満たしても千円でお釣りがくるドトールは、「自腹で楽しむからには外したくない」消費者心理にもマッチしているのだ。

注目したいのは、最近の消費者は総じてカッコつけなくなったこと。たとえば休日の服装なら、動きやすいファストファッションを愛用する人も目立つ。外食店でもきちんとした服装でフランス料理のフルコースを選ぶ人は少数派だ。イタリア料理であれば、メインディッシュをパスタやピザで締めたりする。そうした心理がカフェ選びにも反映されている。

▼満足度その3「女性の支持」

また、ドトールはモーニングサービスの「朝カフェ・セット」に野菜たっぷりのメニューを取り入れるなど、女性を意識したメニュー開発にも意欲的だ。健康を気づかうメニューは女性受けしやすい。こうした手法も実を結び、以前に比べて肌感覚でも女性客が増えた。

もともと男女を問わず、喫煙者の間ではドトール支持者が多かった。スタバは早くから全席禁煙に移行しており、「喫煙者にやさしい=ドトール、厳しい=スタバ」という構図になっていたからだ。逆に言えば、喫煙者以外の女性客はドトールを敬遠する傾向にあったが、店の分煙設備も整い、マイナスイメージが減ったのも満足度向上につながったと思う。

ただし、ドトールは店によって接客レベルにばらつきがある。取材でも同店で不快な接客を受けた人の声は聞いてきた。その具体例を記す紙幅はないが、スターバックスやコメダ珈琲店で、そこまでひどい接客を受けた話は聞いたことがない。筆者の実感でも最寄り駅の店の接客はいただけない。同じ駅に住む取材先の広報担当者も同意見で、ドトールから転職した元社員からは「その店は以前から本部でも問題になっている」と聞いたことがある。

店というのは、ある意味で生き物だ。いくら経営者が理想を掲げても、1店舗の対応次第でブランドイメージは上下する。現在好調な同社だからこそ、最後に指摘しておきたい。

高井 尚之 (たかい・なおゆき/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)
1962年名古屋市生まれ。(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。
近著に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(プレジデント社)がある。これ以外に『カフェと日本人』(講談社)、『「解」は己の中にあり』(同)、『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)、『なぜ「高くても売れる」のか』(文藝春秋)、『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『花王「百年・愚直」のものづくり』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。
(宇佐美雅浩=撮影)
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