36年連続トップの「加賀屋」から奪首
第42回プロが選ぶ「日本のホテル・旅館百選」の総合第1位に、八幡屋(福島県・母畑温泉)が輝いた。昨年12月のことである。「ああ、そうですか」と素通りしてしまいそうなニュースだが、実はこれ、旅館業界では大事件なのである。なぜなら、36年間連続1位の座に君臨、名実ともに日本一の旅館といわれる加賀屋(石川県・和倉温泉)を引きずり下してトップの座に着いたからだ。加賀谷は昨年9月の食中毒事件の影響が否めないとはいえ、無名の「八幡屋」ってどんな旅館なのか。
その前に、プロが選ぶ旅館百選の“プロ”っていったい誰か。主催する旅行新聞新社に聞いた。
「全国約1万6000社の旅行会社に、年に1度投票ハガキを郵送。もてなし・料理・施設・企画の4部門に分け5段階評価してもらい、その集計で総合順位を決めます。ホテル・旅館を対象にしたランキングではウチが最も老舗だと思います」(企画営業部・野村一史さん)
旅行マスコミや利用客の票は一切含まない。魚河岸でいえば仲買人にあたる旅行代理店が、玄人目線で損得抜きに選ぶところに値打ちがある。
選考理由や獲得点数は非公開だが、「八幡屋は4部門ともトップになっていないけれど、企画部門で2位、ほかの3部門ですべて3位に入るなど、とりこぼしなく点を稼いだ」のが勝因という。ちなみに、総合順位の2位は「白玉の温泉慶・華鳳」(新潟県・月岡温泉)、3位は加賀屋、4位「稲取銀水荘」(静岡県・稲取温泉)、5位「草津白根観光ホテル櫻井」(群馬県・草津温泉)であった。
八幡屋(やはたや)も全国的に無名なら、源泉の母畑(ぼばた)温泉もほとんどなじみがない。福島の温泉といえば、飯坂温泉、高湯、土湯、岳、芦ノ牧温泉あたりが有名だが、南会津や阿武隈山脈の山ひだにも小さないで湯がいくつもある。母畑温泉もその一つで、「八幡太郎義家が奥州征伐の途中、馬の傷を谷間の清水で洗ったところ、たちまちにして傷が治ったという伝説が残る古湯」(全国温泉大事典)だそう。八幡屋の由来はいうまでもなかろう。福島県観光物産交流協会に問い合わせたところ、「5軒ほどの旅館があるが他は小旅館・民宿で、母畑温泉=八幡屋といってもいいくらい」だという。