「即断即決」の上司は部下が育ちにくい

また「即断即決型」の管理職は部下の育成ができないという難点もあります。すべて自分で決めてしまうため、部下が育ちにくいからです。なぜなら、部下が自ら考えなくてすむようになってしまい、「考える力」を養うことができない。これは部下の成長にとっても、会社の発展にとっても不幸なことです。本来、現場をよく知っているのは、若い部下のはずです。彼らと議論をすれば、最新の市場状況を踏まえた結論が導き出される可能性は高いでしょう。

民主党(現・民進党)が政権を担っていた頃、ある省庁に招かれたことがあります。大臣と副大臣2人、それから政務官3人の6人と懇談しました。人材育成をテーマに率直に語り合いました。皆さん優秀で、とても有意義な意見交換ができたことを覚えています。ところが終わった後に、政務官の1人が「いやあ、柴田さん、ありがとうございました。今日の話は面白かったですよ。実は内閣がスタートして以来、こうして大臣以下のメンバーが揃って語り合ったのは初めてです」というわけです。

私は耳を疑いました。政権発足から、もう1年以上が経っていました。「本当ですか」と尋ねると、「大臣は自分が強いリーダーシップを発揮することにこだわるタイプです。重要な指示を出すときには、1人ひとりの部下に、個別に対応しますから」との答えが返ってきました。

民主党政権が短命だった理由が、このあたりにもある気がします。やはり、チームとして目指すところと判断軸を共有し、部下にも自律的な判断を任せるべきです。おそらく、彼らは高いモチベーションで事に当たるはずです。そしてその際「君に任せるが、もし失敗しても、上への責任は私がとる」と明言することを忘れてはいけません。

柴田昌治(しばた・まさはる)
1986年、日本企業の風土・体質改革を支援するスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。著者に『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『成果を出す会社はどう考え動くのか』『日本起業の組織風土改革』など多数。近著に『「できる人」が会社を滅ぼす』がある。
(構成=岡村繁雄)
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