鍵を差し込みノブを引くと、悪い予感が的中、ドアにはチェーンロックがかかっていた。一瞬、怒鳴ってやろうかという考えがほろ酔いの頭によぎるが、金井昭(仮名)さんはすぐにここが社宅であることに気づく。そしていつものようにインターホンを押すと、家の奥にいるはずの妻に向かって、「お願いだから開けてくれよ」と小声で交渉を始めた。

金井さんはメガバンクに勤務して8年目。31歳にして年収1000万円弱を稼ぐ。一流国立大を卒業。入行後は営業店で中小企業への融資を担当し、2007年から本店の投資業務部門へ異動。役職も上がった。上司と衝突し転職活動をしたこともあるが、現在の職場は人間関係も良好。銀行マンとして着実に階段を上る金井さんは、「今の仕事に大きな不満はないですね」と淡々と語る。

28歳で結婚した金井さんは、翌年には子宝にも恵まれた。順風満帆のように見えるが、話題が家庭に及ぶと、急に口が重たくなる。

「夫婦仲はいいとは言えません……。子供がいなかったら、すぐにでも別れていますよ」

妻の恵さんと知り合ったのは27歳のとき。30歳までに子供をもうけるというライフプランを立てていた金井さんは、今が結婚のタイミングと判断。交際を始めて半年後にプロポーズすると、思惑通り結婚に至った。しかし結婚後、2人は互いの価値観が予想以上に異なることに気づく。

「僕はお酒が好きで、独身時代から接待も兼ねて飲み歩く機会が多かったんです。だけど飲まない妻にとって飲酒は金銭的にも時間的にもムダにしか見えないようで、理解を示しません。だから飲みに行って『遅くなる』と連絡しなかったときは、家に入れてくれない。そういうすれ違いが多くて、月に1回は激しい口論をしています」