今でこそ時代小説の中に政治・経済が描かれるのは当たり前だが、戦後、これが顕著なのが杉本苑子の『狐愁の岸』である。外様諸藩の勢力を削ぐため、江戸幕府から治水工事を命じられた薩摩藩が工事費用の調達から竣工に至るまで、どれだけの血を流しながらやり遂げたかが描かれる。事故、病気、責任を取って切腹する侍たち。まさに死屍累々だ。
同じ女性作家、永井路子は、『炎環』で、鎌倉時代を戦国、幕末に次ぐ第三の激動期として位置づけた。永井は、当時を理解するため、歴史書『吾妻鏡』を読み込んだところ、矛盾点が山ほど出てきたという。権力側である北条氏の視点で描かれているからなのだ。そうやって得られた歴史観は専門家にも受け入れられるほどの本格的なものだ。
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(荻野進介=構成 市来朋久=撮影)



