柳の下の泥鰌を狙い、売れるジャンルに新規参入が相次ぐのは出版の常、時代小説を読みたいが点数が多すぎて何から読めばいいかわからない、という声をよく聞く。そこで、物心ついた頃には祖父の膝の上でテレビの時代劇に見入り、その影響で中学時代からこの世界に耽溺してきた私が初心者のための必読100冊を選んでみた。ちなみに史実に沿って筋が展開される作品を「歴史小説」、時代という衣装を借りて作者が夢を語るものを「時代小説」というが、本稿では区別せず、時代小説で統一する。

作品解説に入る前に、時代小説を読むうえでのポイントを押さえておきたい。

時代小説は過ぎ去った過去の話を扱うから興味がもてない、という人がいる。違うのだ。設定は過去であっても、優れた作品ほど、その内容が現代との合わせ鏡になっている。例えば今年のNHKの大河ドラマの原作、火坂雅志の『天地人』。主人公、直江兼続は、関ヶ原の戦いで西軍についたため、領地を減らされ、米沢へ転封されるが、家臣をひとりもリストラせず、彼らを食べさせるために殖産興業を推進し、農業の手引書まで作った。まさに未曽有の不況に負けまいとする昨今の中小企業の経営者とだぶる。