音読を工夫することで通訳の幅はぐっと広がる

三宅義和・イーオン社長

【三宅】なるほど。普段から持っている英語の基礎力やボキャブラリーの多さ、多彩な言い回しに加えて、そうすることで、より深みのある通訳ができるわけですね。

【横山】はい。言葉を後から追いかけるというよりも、次はこう来るだろうと。知識だけの先読みじゃなくて、心とか意図の先読みができるほうがいいかなというのはありますね。僕が通訳していて「うまくいっているな」と思うときは、自然とそうなっている気がしています。

もし医療分野なら、知識だけで勝負しようとすると、僕もその道の専門家にはおよびません。しかし、場の空気を読み、「この交渉は、何のためにやっているのか」ということを感じていくと、うまく通訳できる場合が多いわけです。

【三宅】非常に深い話ですね。とはいえ、医療分野などは専門用語も難しい。通訳される前にしっかりインプットしてから臨まれますか。

【横山】もちろんそうです。ただ、専門的な単語を数多く、しかも一夜漬けで覚えようとしても、それには無理があります。けれども、誰でも趣味などに関連して、いろんな本を読みます。僕の場合は洋書で読むことも少なくありません。気がつくと、かなり共通している単語や表現があります。これは現場にも生かせますから、丸暗記しなければいけない単語や用語は絞り込めます。

自分が興味を持っている分野の用語は絶えず増やしておいて、自分の土俵に強引に引っ張り込む。少し前、大手の医療機器メーカーで人工心臓開発の通訳をやりました。当然、専門用語が飛び交いますが、面白いことに人工の血管とか弁などに関する用語は自動車部品のチューブとかワイヤーハーネスとほとんど同じでした。

【三宅】いろんなところに興味を持ち、アンテナを張り巡らせて知識を蓄えておられるということですね。それが、そのまま使えるときも多くある。ところで、同時通訳者になるためのトレーニングとはどのようなものでしょう。私どもイーオンでは、音読を非常に重視しています。横山さんは『パワー音読入門』という本も書かれていますが、やはり声に出すことは大切ですか。

【横山】本を読んでナレッジベースの知識を増やしておくことは大事です。だが、それだけだと、パソコンに例えると、ファイルがどんどん溜まっていく感じ。ファイルが増えれば増えるほど、検索に時間がかかるようになってしまいます。

じゃあ、どうするかというと、ファイルは増やしておいて、仕事の直前になると、僕の場合は、医療なら専門家のインタビューを片っ端から呼び出してきて、それを音読するんです。すると何が起こるかというと、専門分野の論文で書かれている難しい言葉が口語で出てきます。しかも、Q&A形式ですから、会議や交渉時のリズムを掴むこともできますね。これは、ファイルはたくさんあるけれども、最近使ったファイルとして分けて活用する感じですね。

やっぱりリーディングインプットで興味を増やして、必要に応じて音読する。それによって、知識としてではなく能力まで高めておくわけです。それには、音読が9割。僕のやり方ですと、音読を工夫することによって、通訳の幅はぐっと広がっていきます。

【三宅】音読の工夫というのは、通訳の場を想定して声の強弱を変えるとか。

【横山】それもありますし、あとは、スピード、リズム、抑揚なども工夫します。最初のアクセントを強くするとか。それと声の大きさを変えてみるということもあります。とはいえ、最後はモチベーション。いい通訳になるように、まず自分の興味があるもので、好きな人のもので音読すると。次に勉強しておくべき内容について、その専門家の論文などを読んで、それに自分の心を合わせていくっていうことですね。