反対意見の相手を攻めず、事実を提示

シェークスピアの名作『ジュリアス・シーザー』の中盤、シーザーが殺された後に始まるスピーチです。異なる意見を持つ、あるいは仇をとりたい相手がおり、聴衆も相手に傾いていて、自分が劣勢であるときに、相手をどう突き崩し、聴衆にどう自分の正しさを伝えていけばよいかを学べます。

蔭山洋介●コムニス代表。企業経営者や政治家、講師などに向け、講演、スピーチ、プレゼン指導やブランド戦略のサポートにあたる。著書に『スピーチライター 言葉で世界を変える仕事』『パブリックスピーキング』がある。

相手に「あなたは間違っています」と正面から攻めていくのではなく、「あなたは素晴らしい」と言って、相手のさらなる反論を抑える。そうしながらも、事実をひとつずつ提示していくことにより、相手の意見の綻びを明らかにしていくのです。

シーザーを殺した憎い相手であるブルータスを、アントニーはこの演説で「高潔の士、ブルータス」と持ち上げ続けます。最初、聴衆には「ブルータスはよいことをした人」という意味で響いていますが、徐々に「本当にブルータスは高潔なのか?」と、受け取り方が変わっていきます。アントニーはただ事実を並べるだけで、それを達成していくのです。

言いたいことを言うだけが重要なのではなくて、聞く者の心がどう変化するかという、その「間」や「駆け引き」が、スピーチの醍醐味なのです。

(野崎稚恵=構成、翻訳 葛西亜理沙=撮影 写真=アフロ)
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