働けなくなった時の休業補償給付も……
それだけではない。
副業先で事故に遭った場合も不利になる。仕事先で労災事故が発生し、社員が入院し、休職を余儀なくされた場合、病院にかかる費用の療養補償給付や休職中の休業補償給付が受けられる。だが、副業先のB社での事故が原因の場合、休業補償給付の給付基礎日額の算定はB社の給与のみで算定し、A社の給与は加味されない。
具体的な休業補償給付は平均賃金の6割、休業特別支給金の2割を加えて8割程度支給される。もしA社で30万円、B社で10万円の給与をもらっていたとしたら8万円しか休業給付をもらえないことになる。仮に1カ月以上入院したら生活にも支障を来すことになる。
通勤途中の災害については、2005年の労災保険法改正で本業の勤務先から副業の勤務先へ移動する途中で事故にあった場合は通勤災害として認めることになった。じつは法改正の議論の際に労災保険給付の算定基礎となる給与をどうするかについて議論されたが、先送りにされた経緯がある。
失業した時に手当が支給される雇用保険は週に20時間以上の雇用実態がある場合に適用される。だが失業給付を受けるには2社で就業していても1社でしか適用されない。もしかしたら社員の中には2社で働いていたのだから、副業の給与を含めた合計額が失業給付の給付日額の算定基礎になっていると誤解している人もいるかもしれない。
仮に副業を容認している企業であってもこのことをどこまで周知しているのだろうか。
雇用保険にも入れない非正規労働者にとっても深刻だ。
1社の労働時間が週20時間未満であると、2社の合計労働時間で加入要件を満たしても、離職後に失業給付を受給できない状況にある。
兼業・副業が容認されても、社員にとってはこれだけのリスクが放置されたままになっている。いざという時に最も困るのは働く人たちである。国がガイドラインを示すだけで解決する問題ではない。本気で兼業・副業を推進しようと思うのであれば、副業する社員が不利にならないような法改正も同時に行うべきであろう。
一方、兼業・副業を積極的に容認していこうという企業はこうしたリスクをちゃんと社員に説明しているのだろうか。
仮に副業を推奨しようとするのであれば、少なくとも副業先での労災事故の補償を補填するぐらいの救済措置も設けていいのではないか。副業を推奨するが、そこで発生する問題はすべて自己責任というのではやはりおかしいだろう。
兼業・副業を推進することが、大企業人材の中小企業での就業促進や可処分所得の増加につながることによって、国全体の富は増えるかもしれないが、その裏で過重労働など、犠牲を強いられるのは働く人たちなのである。