先頃、本田技研工業が中国での乗用車の生産・販売を巡って、東京国税局から「移転価格税制」の調査を受けていることが明らかになった。しかし、これは氷山の一角にすぎない。1990年代以降、アジア各国に進出した日本企業は利益を海外にため込み、巧みに法人税の課税を逃れてきた。そのことに税務当局が目を光らせ始めているからだ。
しかし、移転価格税制と急にいわれても、何のことやらわからない人も多いはず。そこで下図を見てほしい。日本企業のA社が原価250円の部品を、中国にある関連会社X社と、資本関係のないY社に売った。その価格はX社が仲間内値段の300円で、Y社は500円だった。
原価が250円だから、各取引であがるA社の利益はY社が250円なのに対して、X社とでは50円たらず。課税対象は利益だから、A社が負担する税金はX社との取引のほうが安くなる。そこでY社と同じ価格で取引したとみなして法人税を計算するものが、ホンダに適用された移転価格税制だ。
「X社は安く仕入れたのだから、当然利益があがる。その分、中国で課税されるから問題ないだろう」と考えた人。あなたは会計センスが鋭い。でも、会計と税務は違う世界の話になるからややこしい。
日本の法人税等の実効税率は米国と並ぶ40%で主要国の中では突出している。つまり、海外にはこれより税率が低い国が多いのだ。当然、そんな国で利益をあげたほうが法人税の負担は抑えられる。たとえば日本企業が数多く進出する中国の法人税率は現在25%。日本の実効税率が約40%なので、約15%も差があることになる。先に見たA社の場合、日本国内での自社の利益を抑え、中国にあるX社の利益を増やしたほうが、グループ全体の税負担は軽くなる。
今回、ホンダが問われているのは、中国企業との合弁企業である広州ホンダが、日本に支払う技術指導料や特許料が通常に比べて著しく低くないかという点だ。適正な価格に設定していれば日本国内のホンダ本体の利益は増え、それに伴って法人税も多くなるものと当局は見ている。