「日本最大級」未上場企業の値段

キリン・サントリーの統合構想に市場は大いに期待し、また破談の報に消沈した
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キリン・サントリーの統合構想に市場は大いに期待し、また破談の報に消沈した

統合比率はそれぞれの会社の100%の企業価値を算出する。上場企業同士であれば、過去1、2年程度の株価の推移をベースとした市場価格を前提に時価総額を算定し、それに応じて統合比率を算出する。「上場企業同士でも1対1なのか、1対1.1なのか、1対0.9なのかといった微妙なところは交渉ごとになってきます」(同)。

そのためM&Aの交渉を行う場合は、買収側、売却側双方の立場で評価し、そのうえで話し合って最終的な買収価格を決めるわけだ。どちらかが事実上買収するようなケースでは、統合比率にもプレミアムが付くこともある。さらに上場企業の場合は、それぞれの株主に説明がつく比率でなければならない。

ましてサントリーのような非上場の企業であれば、さらに難しい。「一般論として、評価する人によって1000億円になる場合もあれば、500億円になる場合もある。あるいは300億円にだってなりうるのです。それほど、誰がどのような立場で評価するかによって非上場企業の価値は違ってきます」(同)。

キリン・サントリーの統合比率にはもう一つの大きな問題があった。資産管理会社「寿不動産」を通して9割の株式を握る創業者一族に佐治社長は一定の影響力は温存することを約束していたといわれ、そのためには合併や定款変更など重要事項について、株主総会の特別決議の拒否権を持つ3分の1超の株式が必要だったのではないか。しかしキリンの案ではその条件を満たすことができない。

「私がいっている前提条件の中でも持ち株比率はもっとも重要な事項です。49%と50%超ではその意味が全然違います。50%超の株式を持っていれば単独で株主総会の普通決議を通すことができ、実質的な経営権を取得できます。さらに3分の2以上の株式があれば、株主総会で特別決議を通すことができます。また3分の1超の株式を持っていれば、提案された議案の拒否権を行使することができるのです。持ち株比率は、統合後の経営への影響力を大きく左右します」(同)

それだけに株主の持ち株比率は重要な要素である。このうえ、後から創業家からの要望や不平も膨らみキリンサイドを当惑させた。加藤社長は当時の状況について「交渉しているうちに(創業家から)異なる意見、要望が出てきた」と語っているが、一般株主よりも創業家を優遇することには難色を示し、パブリックカンパニーとしての立場を堅持した。交渉の難しさについて佐治社長は「オーナー会社とパブリックカンパニーは違いますね。難しいね。我々が考えているオーナー会社のよさもパブリックカンパニーのよさも理解されなかった」と語る。

一方、経営統合が表面化した7月13日を境に上昇基調に入ったキリンHDの株価は、ピーク時には1544円をつけた。だが、経営統合の破談が報じられると、株価はその当日だけで7%強も下落。市場がいかに失望したかが見て取れる。もちろん未上場であるサントリーHDが株価に翻弄されることはない。

交渉終了の発表からほどなくして、キリンの加藤社長は社長退任を決めた。「統合交渉の結果とは関係ない」(加藤社長)とのことだが、「これが上場企業トップとしてのけじめのつけ方」との気概を感じた人は少なくないであろう。

両社は今後、それぞれ独自の道を進んでいくという。しかし「競争と協調」の理念は共有し続けるということから、まだまだ再々編の動きも見逃せない。はたして両社の行方はどうなっていくのか、目が離せない。