ちょうど1年前、検索サイトのグーグルを活用して経済分析を行う面白さを解説した『Google経済学』を10万部のベストセラーに押し上げた著者で、公認会計士でもある柴山政行さんが、「いままで誰も手をつけてこなかった会計本の領域に挑んだ」と語る『儲かる会社に変わる「バランスシート革命」』が出版された。
損益計算書、キャッシュフロー計算書とともに「財務三表」を成すものがバランスシート、いわゆる貸借対照表である。公認会計士がバランスシートについて論じるのは当たり前ではないか。一体どこが未知の領域なのだろう。
「これまでの会計本は、財務諸表のどこに、どのような数字が記載されているか、財務諸表を読むための知識の伝達にとどまっていた。でも、多くの読者は欲求不満を感じていたはず。会計本に求められているものは、どうしたら利益がアップするのか、安定した経営を継続していくためには何をしたらいいのかを、会計の視点からさらに一歩踏み込んだところにある気がしてならなかった」
確かに大半の会計本は財務状態の把握で満足していたのかもしれない。「病院での診療でいうとレントゲン写真を撮影しただけ。それを分析し、どのような治療法があるのかを洗い出す。そして最良のものを選択し、どう実行していくか、具体的なメソッドまで言及しているものは見当たらなかった」ともいう。
そんな柴山さんが最も重視する財務諸表がバランスシートである。その時々の会社の健康状態を示す唯一の“診断書”といっていいものであるからだ。
「在庫が増えていることがわかり、事業部ごとに原因分析を命じられたとする。でも、正直に報告しても叱責されて馬鹿をみるだけと思う部下が必ずいて、結局は改善が進まない。部下が正確に報告するようインセンティブをどう与えるか、その方策を用意しておくことのほうが重要なのだ」
第六章「バランスシートで経営改革を実現する『柴山式・管理メソッド』」が本書の“肝”というべきパートである。学生時代の教材販売のアルバイトで幹部に抜擢されたり、商売のイロハを学ぼうと鯛焼き屋を始めたり、経営の現場を知る会計士ならではの「ストレス・貢献度マトリックス」といった部下管理方法が紹介されている。
「読者が自らの行動を変えるかどうかで、その本の真価が問われる」と柴山さんはいう。数ある会計本に飽き足らなかった人は、ぜひ本書を手にとっていただきたい。