しかし鈴木氏に聞くと意外なことに、この試みは女性のためではなかった。

「今は女性が活躍するためには時間のコントロールが絶対だと思っていますが、最初に19時前退社をしたときはただの営業改革でした。際限ない働き方をしていたら、全然生産的ではないからやったんです。今はこれをやらないと女性は活躍できないし、働き続ける中で、一段高いところに行く人が出てくるとわかりました」

「切った張った」の男社会だった証券業界だが、大和証券では今まで女性のいなかった職場にも数多くの女性たちが第一線で働いている。

最初は副社長クラスも「19時前? それだけは無理ですよ」と反対したが、鈴木氏が押しきった。

「結局自分が嫌だと思っていたことをやめたんです。私の若いときは、坂の一点を見つめながらどんどん登っていく時代で、毎晩22時、23時が当たり前でした。人と約束もできない。途中で、ふと、これはおかしいんじゃないかと」

しかし、お客がある仕事で、ライバルは夜遅くまで営業している。生き馬の目を抜く証券業界で、社員の労働時間を減らすということは、リスクが大きく、大きな決断だったに違いない。

「うちも113年続いている会社です。100年以上続いた働き方をやめるのだから、それはいろいろあります」

年度末、19時に支店の全員が帰って、管理人が鍵をかけて外に出たらお客がいた。「みんな帰りました」と言ったら「俺は証券会社で働いていた。年度末19時に帰るわけないだろう」とずっと怒られた、というエピソードも。

とはいえ、鈴木氏は腹をくくっていたようだ。例えば「21時に毎日報告をくれ」という大手のお客がいる。鈴木氏は「代案を出しても納得してもらえなかったら、それはしかたない」と言ったそうだ。

「結局大手のお客を持っているような最高の営業ならうまく説得するんです。本当にやればできるんですよ」