「稼ぐ」人から「積み上げていく」人へ

鈴木氏はさらにもう一つの改革を行っていた。04年からより強く「資産コンサルティング営業」を打ち出し、短期的な利益追求ではなく、顧客の資産形成を総合的にコンサルティングするサービスへと大きくかじを切った。

「前は手数料を稼ぐ人が一番とされていました。評価基準がそうだと、債券ひとつでも短期で売買する。そういうのをやめようと。新しいお金を持ってきた人、新しいお客をつくった人、それを最大に評価する。女性はコツコツまじめにやって、新規開拓に強い。最大に活躍できる部分ではないかと思うんです」

女性は仕事に対して倫理観が強い面があるといわれている。「とにかく手数料を稼げればいい」という証券業界の構図から大和が脱却するなら、彼女たちは大きな力になるだろう。

大和証券グループは07年に東京駅八重洲口にある「グラントウキョウ ノースタワー」に本社機能を移転。光が差し込むカフェテリアは社員の憩いの場だ。

「新人の頃、お客さまに手数料のために売買してほしいとお願いするのは難しかった。株式や投資信託の購入額重視なら、少なくとも一件一件積み上げていける。女性はきめ細かな対応でお金を預けていただくには向いていると思います」(西山真里氏/人事部人事一課課長代理)

鈴木氏は、大事なのは「徹底的にやり続けること」と説く。

「改革で規模拡大だけを目指しているわけではないんです。なにより、社員がクオリティーも高く、ロイヤルティーも高く働いてくれることが大切なんです。うちのような会社は人がすべて。営業はやる気になれば120にも200にもなるし落ちれば80、70にもなる」

大和は「女性の登用」「長時間労働慣行の是正」「評価の改革」という3つの改革を行った。それが実行できたのはトップの強いコミットメントとたゆまない社内外への発信にある。市場環境の変化から、商売のやり方も変わる。何かを変えなければ生き残れないとすれば、女性の力を生かすことは重要だ。女性は変革を迫る存在であると同時に、未来への最大のパワーになりうる存在なのだ。

「損してほめてくれるお客さんはいません。相場が悪くなったとき、専業主婦になりたいなという気持ちがちらつくかもしれない。子育てなどのハンディはあるけれど、女性も働いて、社会に対して義務を果たす必要がある。しぶとさ、折れない強さを大切にしてほしい。めげちゃいかんよ」(鈴木氏)

トップから女性に、声援は送られ続けている。

撮影=広川智基、邑口京一郎