今回の消費増税では、「保育所の拡張と保育士確保」「自動車取得税の廃止」「すまい給付金の拡充」「国民健康保険に対する財政支援」「介護職員の給与増」「低所得高齢者・障害者などへの年金の福祉的給付」などの施策が、増税と引き換えに実現するといわれてきた。
保育所や保育士の数を増やし、保育士の賃金を引き上げるという子育て支援は、日本の将来を考えるうえで重要な政策である。それによって子供が増えれば、将来の税収増につながる。保育所を拡充すれば働く女性が増え、税収は上がる。
保育士の給料水準はこれまで他産業に比べて低水準といわれてきたが、所得が低い層で所得増が起きるとダイレクトに消費が伸びるという効果もある。その意味でも税収増につながる政策なのだ。
となると、一連の子育て支援政策に遅滞があれば、景気にとっても将来の税収にとっても悪影響が出ることは間違いない。だが、政府は「待機児童解消に向けた保育分野の受け皿整備は、予定通り平成29年度から実施する」と宣言しており、消費増税が実現しなくても、この部分は心配無用といえる。
介護士の給料を上げることも消費の拡大と税収増に直結する。子育て支援と違って介護士の待遇改善については、政府も積極的なコメントを出していないようだが、介護士は高齢化進行の中で今後、一段と不足することが明らかな職種で、定年退職者などの雇用の受け皿としても重要度を増していく。消費増税とは関係なく、社会政策として予算を投じるべきだろう。
他方、自動車取得税の廃止、すまい給付金の拡充については、中止しても問題はない。政策により一時的に住宅購入が増えたとしても、しょせんは需要の先食いにすぎず、その後は反動が延々と続く。特に持ち家取得への政策的な支援は、既存の仕組みを含め、なくしていくべきだ。
なぜなら、今後は人口減少に伴い全国で家あまりの状況が続き、中古住宅と住宅地の供給は増していく。供給過剰が進む住宅は、ごく一部を除いて値上がりしない不良資産となることが確実である。若い世代にローン完済まで何十年もかかる不良資産を抱え込ませることは、本人たちにとっても、日本経済にとっても望ましくない。
年金に関しては、財源不足を消費税収でカバーしようという発想そのものに無理がある。高齢化が急速に進行する中で年金制度を維持していこうと考えるなら、支給開始年齢を高くして受給期間を短くし、バランスを取っていくしかない。これは定年延長とセットで実施しなくてはならない。現在の60歳は、戦後間もなくの60歳とはまるで違う。まだ十分働けるし、働いてもらわねばならない。
いずれにしても、国が目指すべきなのは「税率を上げること」ではなく、「経済を成長させ全体の税収を増やすこと」。かつて高度成長期には、税率を上げれば税収も自動的に増えたものだが、成熟期に入った現在はそうではない。また、20%前後が一般的な欧米に比べて日本の消費税率は低いと言われているが、欧米と違って軽減税率がないため、実効税率としては見た目よりも高い。消費税率は8%で十分。増税は延期ではなく、中止とするべきだ。