本当のグローバリゼーションとは
こうして、生産地では豆を売ってくれるだけでなく、発酵の指導なども喜んで受け入れてくれるようになった。インドネシアでは、Minimalの考え方に感化された1人の生産者が、他の生産者に発酵方法を広めるような動きも出てきた。彼らは感謝の気持ちを込めて出荷するカカオ豆の麻袋に朝日の名前である「Masato」とプリントしてくれた。
「生産者と対等なパートナーとして付き合う中で、彼らにもものづくりの自負が生まれてきました。おカネではなく信頼がベースとなって、生産者も僕らも消費者も幸せになる。これこそ本当のグローバリゼーションではないでしょうか。そして、こうした経緯や思いをストーリーとしてお客様に伝えることで新たな価値が生まれます。単なるお菓子を提供しているのではなく、贅沢な時間を楽しむ価値を提供し、Bean to Barによって縁が広がっていくことが大切だと思います」と山下。
Bean to Barの伝道者のような山下だが、前職は全く関係のない人事・組織関係のコンサルタントだった。それもいまでは珍しいようなモーレツサラリーマンで、贅沢な時間を楽しむような余裕などなかった。
「大学時代から起業も考えていましたが、僕自身にビジョンがありませんでした。なんのためにビジネスをすればいいのか見つからず、まず20代は修業だと、モチベーションをマネジメントするコンサルティング会社に就職したのです」
リンクアンドモチベーションという会社は山下が2007年に就職した当時、学生に人気の超難関企業だった。それを見事に勝ち抜き、山下は天狗になった。大学時代の仲間には起業した者もおり、彼らに負けまいと、死にものぐるいで働いた。配属は新規顧客を開拓する営業担当。1日100件、アポイントを取るための電話をかけまくり、昼間は飛び回って、夜中1時から明け方まで資料作り。5日連続徹夜で週7日出社。仮眠をとるときは机の下に頭を突っ込み、仰向けになって、朝7時にやってくる掃除のおばさんに起こしてもらった。お腹に「僕はゴミではありません。一緒に捨てないで下さい。起こして下さい」と紙を貼っていたというから笑うに笑えない。
そんな生活が1年半続いたにもかかわらず、全く契約が取れなかった。
「1部数千円の適性検査さえ簡単に売れない。自信満々だったが、鼻っ柱を折られたどころか、削り取られました」