業績を挙げている経営者たちは、どんなメールを書いているのだろうか。超効率重視のメールから情熱的なものまで、様々に集まったメールを言葉のプロが徹底分析する。

これは、2013年8月、ジェフ・ベゾスがワシントン・ポストを買収した際に、そこで働く社員に向けて送ったメッセージだ。不安を募らせる従業員に、言いにくいけれど伝えるべきこと、「変化を免れることはできない」ことを伝えるため、ベゾスはどのような文章を書いたのだろうか。ベゾスの経営手腕や発言をみてきたジャーナリストの桑原晃弥氏は言う。「今回、アマゾンとしてではなく、個人で買収したのは、儲けよりもジャーナリズムを助けたいとの思いからだろう。前半でこれまでの業績を讃え、後半ではウォーターゲート事件にも言及して賞賛し、自身の覚悟を示している。本当に伝えたいことを承認の言葉ではさむサンドイッチ構成で従業員の疑念を払拭するメールになっている」。

人間、変われと言われても素直に従えないもの。そんな心のバリアを取り除き、自然と「変わりたい」気分にさせる名文といえる。

▼伝え方の達人が解説!

【1】相手の頭の中を想像する
従業員の気持ちを想像し、不安を和らげ、共感を引き出せるような内容で始める。

【2】相手の実績を認めて讃える
ワシントン・ポストのこれまでの実績を讃えることで、相手の心を開かせることに成功している。「言いたいこと」を伝える前には聞く耳をもってもらうための地ならしが肝心。

【3】「クライマックス法」で後続の言葉を強調する
「肝心な点から話を始めます。」と前置きすることで、その後にくる一文に注目を集めることができる。

【4】主張に納得感をもたせる
ここが本来言いたいこと。でも丁寧に言わないと従業員の不安を煽ってしまう。なぜ、変わっていく必要があるのか、ワシントン・ポストの記者たちも実感している現状を指摘することで腹落ちできるように説明している。

【5】ビジョンとヒントを示す
「新たなものを生み出す発想が求められる」というビジョンとそのためのヒントをセットで示すことで、従業員のやるべきことが明確になっている。

佐々木圭一
上智大学大学院を修了後、1997年博報堂に入社。伝えることが得意でなかったにもかかわらず、コピーライターとして配属され、苦しむ。著書『伝え方が9割』では、もがくなかで見つけた伝え方の技術を惜しみなく紹介。
(撮影=宇佐美雅浩、小倉和徳、的野弘路)
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