──なぜ経験主義は通用しなくなったのでしょうか。

高成長期なら経験主義でも対応できたのです。70年代、大量仕入れ大量販売のスーパー業界が伸びていたころは、西のダイエー、東の西友に加えて、イトーヨーカ堂、当時のジャスコやマイカル、ユニーなど6社が競合しても、全社が伸びていけた。

しかし、マーケットが縮小した低成長時代を勝ち抜いたのはイトーヨーカ堂さんのグループ。強い理由は個人の勘や経験だけに頼らない「仕組み」と実行力があったからでした。低成長時代は仕事を仕組み化しなければ、勝てません。個人の経験に頼らず、会社が優れた仕組みを持つことが、その会社の成長を保障する資産となるのです。

社長になってすぐに仕組みづくりに着手しました。店舗で使う「MUJIGRAM」と店舗開発部などで使う「業務基準書」の2つのマニュアルには、「それぐらい口で言えばわかるのでは?」と思われることまで具体的に明文化しています。なぜなら、仕事の細部こそマニュアル化するべきだと考えたからです。細部を店任せにすると各店長の経験や勘によってばらつきが出てしまいます。

たとえば、「商品を整然と並べてください」と指導します。しかし「整然」のとらえ方は人それぞれです。だから、「フェイスUP(タグのついている面を正面に向ける)、商品の向き(カップなどの持ち手の向きをそろえる)、ライン、間隔がそろっていること」と、MUJIGRAMで具体的に定義づけます。新入社員でもわかるように明文化することが重要です。

──経験主義から仕組み化へ社風を変えるさい、抵抗はありませんでしたか。

ありましたよ。私は“ゆでガエル”方式をとりました(笑)。反対派を排除せず、逆にMUJIGRAM作成の委員に任命したのです。最初は嫌々かもしれませんが、積極的に作成に関わらざるをえない立場になれば、人は自分の得意分野では知恵を出してくれる。そうこうするうちにいつの間にか反対勢力だった人も改革と変化に染め上がっていく。

不満を言う人たちはもともと優秀な人たちでもありますから、マニュアルを積極的に活用してもらうよう、現場に働きかける頼もしい戦力にもなります。カエルはゆであがったら死んでしまいますが、人間の場合は痛みを感じさせず、皆で改革を実現できる良い方法だと私は思っています。