セクショナリズムに陥らないためにはどうすれば?

講演の後、テット氏と早稲田大学ビジネススクールの浅羽茂教授とのディスカッション、及び会場との質疑応答が行われた。

ジリアン・テット氏(左)と早稲田大学ビジネススクールの浅羽茂教授(右)

【浅羽】『サイロ・エフェクト』の中ではさまざまな組織の事例が取り上げられています。私たちは官僚主義、セクショナリズムという言い方をしてきましたが、文化人類学的なアプローチというのは非常に興味深いと思います。人々はなぜ、共通のルール、暗黙の了解に捉えられてしまうのでしょう?

【テット】それが、社会集団が形成されるプロセスそのものだからです。さらに、部門化、チーム化は仕事の効率を高める上で非常に効果的です。サイロそのものが悪いわけではなく、効率とクリエイティビティやフレキシビリティのバランスが重要なのです。

【浅羽】サイロ・エフェクトに立ち向かえるのはどういう人物でしょう。

【テット】今日のリーダーに求められるのは、大きな戦略を描く力に加え、組織のあり方を見つめ、それが今の時代に即しているかどうかを判断できる能力だと思います。現代の企業には効率的であれというプレッシャーが強くかかっていますが、効率は重要だと認識しつつ、人材をローテーションしたり、他の部門の人とコミュニケーションがとれるようなゆとりが必要でしょう。サイロを打破するにはリソースが必要という言い方もできると思います。

【浅羽】では、会場のみなさんからも質問を受けましょうか。

――私はこれまで男性中心の社会、会社で仕事をしてきました。どうやってあなた自身は、男性の多いメディア業界でサイロを崩してきたのですか?

【テット】簡単な答えはありません。上品に、決意を持って、そしていい人間であろうとすればいいのではないかと私個人は考えています。

女性は、実は自然にサイロを崩す人になれるんです。多くの女性は仕事以外にもやらなければいけないことがいろいろあり、したがって多様な視点が持てるということが一点。もう1つは、男性中心の会社で仕事をしている女性は、生き残るために自然に文化人類学者にならざるを得ないということです。その集団における文化的パターンやルールは何なのかを、常に意識せざるを得ない。それはハンデでもありますが、強みにもなりえます。

――サイロを壊すには、何らかの目的が必要なのではないでしょうか?

【テット】その通りだと思います。企業にとっては、破綻を避ける、あるいは不祥事を避けるということが動機になりえますし、クリエイティブになる、イノベーションを起こすということを目的にしてもいいでしょう。

より大きな視点で言えば、現在の世界においてどうリスクを見つめ、チャンスを生み出し、活力を取り戻すか、将来の産業、将来の経済セクター、将来の企業のモデル、クリエイティビティや協力のモデルをどのようにして生み出していくのかが目標になると思います。

――教育制度にも関連があるのではないでしょうか?

【テット】非常に重要な指摘だと思います。学生をトレーニングする教育機関そのものが視野狭窄に陥り、専門分野に直結する単位だけに学生を集中させる大学が増えています。私たち親の世代、そして学生自身も、教育とはサイロを壊すものでなければならない、未来に備えるためには広い視野を持ちクリエイティブでならなければならないと意識し、そのために努力すべきです。

『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』(文藝春秋社)
 ジリアン・テット著、土方奈美訳

1999年のラスベガス。ソニーは絶頂期にあるように見えた。しかし、舞台上でCEOの出井伸之がお披露目した「ウォークマン」の次世代商品は、2つの部門がそれぞれ開発した2つの商品だった。それはソニーの後の凋落を予告するものだった。
世界の金融システムがメルトダウンし、デジタル版ウォークマンの覇権をめぐる戦いでソニーがアップルに完敗し、ニューヨーク市役所が効率的に市民サービスを提供できない背景には、共通の原因がある。それは何か……?
謎かけのようなこの問いに、文化人類学者という特異な経歴を持つFT紙きってのジャーナリストが挑む。

 

(構成=川口昌人)
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