地元墨田の中小企業を活性化したい

浜野は地元墨田区への思いが強く、地域の中小企業を活性化するために様々な活動を展開している。

墨田区中小企業の力を結集して、電気自動車「HOKUSAI」を開発(上)。「リアルロボットバトル日本一決定戦」に参戦した「風神」(下)。

2009年には早稲田大学、墨田区と連携し、墨田区中小企業の力を結集して、電気自動車「HOKUSAI」を開発。2012年には本格的なアルミボディを持った3号車が完成した。2013年に世界初の7800メートル深海で生物撮影に成功して国内外から注目された深海探査艇「江戸っ子1号」のプロジェクトにも参加している。2009年から始まったこのプロジェクトは、墨田区・葛飾区や千葉県の中小企業4社が集まり、大学や研究機関、金融機関などの支援の下、始まったもので、製造コストを抑え、市販品のカメラやライトを使って何度も深海撮影ができる画期的な探査艇である。2015年には支援先でもある海洋研究開発機構に4機納入された。

この他、地元の子供たちが町工場の職人の技を体験できる「アウトオブキッザニア」、工場の製造過程で発生する廃材を使って、万華鏡などの新製品をつくる「配財プロジェクト」を地元モノづくり企業の若手後継者を中心に結成した。

また、ロボットクリエイターと組んで、日本テレビの特別企画番組「リアルロボットバトル日本一決定戦」に参戦、「風神」という名のロボットを作り上げたが、惜しくも決勝戦で敗れてしまった。こうしたプロジェクトにここまで力を入れるのは、地場産業の衰退に歯止めをかけたいという思いからだ。

「墨田区には最盛期で9700~9800軒も工場がありましたが、いまはわずか2800~2900軒。このままでは隅田の製造業も技術も消えてなくなってしまいます。なんとか、ここで踏ん張って残していきたいと思っています」

浜野が地元を大切にするのには他にも理由がある。自らがどん底の時に地元の人々に助けてもらったからだ。浜野製作所は浜野の父、嘉彦が1967年に金属金型工場として創業した。浜野は、父から家業を継げとは言われなかったが、大学4年の時に、父の「中小企業は楽しいぞ」というひと言を聞き、継ぐことを決意した。

浜野は大学卒業後、精密板金メーカーで8年間修業し、1992年に浜野製作所に入社する。当時は60歳を超える職人が2人、取引先はたった4社、年商は3000万円程度だった。入社後ほどなくして、父の嘉彦が急逝する不幸に見舞われ、やむを得ず社長に就任した。父から教わりたいことがまだたくさんあったのにと、浜野は涙を飲むしかなかった。

4社しかない取引先は生産を海外にシフトし始め、受注が漸減し、浜野は危機を感じた。新規開拓を進めるためにも、量産加工だけでなく、試作を請け負うことにした。