必勝パターンへの既定路線

かつて「公定歩合」と「解散」については嘘をついても構わないとも言われていた。もはやトップが否定すればするほど、その信頼性は高まる状況である。安倍晋三首相は「全く考えていない」と繰り返しているが、今年夏の「衆参ダブル選」は永田町のみならず市場も織り込み済みだ。「足下の景気分析→マスコミ報道→消費税増税先送り→衆院解散・総選挙」という流れは1年半前と同じだが、増税延期という「打ち出の小槌」はまたしても政府・与党に圧勝をもたらしそうだ。

「2016年は、リーマン危機後で最悪だった15年より弱くなる」

経済学をかじった人間ならば誰もが知るノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授は、3月16日に安倍首相の招きで首相官邸を訪問した。閣僚と世界経済情勢を分析する「国際金融経済分析会合」の初会合に出席し、来年4月に予定されている消費税率10%への引き上げを先送りするよう提言した。会合では、その後も著名な有識者が経済分析を披露したが、これが意味するものは明らかだった。

参議院予算委員会で答弁する安倍晋三首相。(時事通信フォト=写真)

安倍首相は2月19日の衆院予算委員会で、消費税増税の判断に関して「世界経済の収縮が実際に起きているかの分析も踏まえ、政治判断で決める」と答弁していた。それまでは一貫して「リーマン・ショック級、東日本大震災級の出来事がなければ予定通り引き上げる」と繰り返してきた首相が、新たに「世界経済の収縮」を条件に加えたのだ。

新条件が生じているか否かを誰が定義するか。国際会議や国際機関での「認定」もありえるものの、それよりも前に世界の著名な有識者が分析し、意見表明する。安倍首相は増税延期の「お墨付き」を分析会合で得られると踏んだのだ。ある内閣府幹部は「ノーベル賞受賞者らが『世界経済の収縮が起きている』と言っている状況で予定通り増税すれば、日本は世界中から笑われる」と狙いを語る。