聴き手をぐっと引きつけ、最後には反対勢力をも納得させてしまう孫社長。6年間仕えた元参謀が伝え方の極意を伝授。
ソフトバンクグループが11年5月9日に行った11年3月期の決算発表。売上高は創業以来、初めて3兆円を超え、3兆46億4000万円(前年同月比8.7%増)、営業利益は6291億6300万円(同35.1%増)、経常利益は5204億1400万円(同52.6%増)。このときの決算数字は驚異的なものだったといっていい。
成長の源泉となったのが携帯電話にほかならない。この分野の売上高は2兆円弱、営業利益は約4000億円だった。ソフトバンクがボーダフォン・ジャパンを買収した06年と比べれば雲泥の差だ。孫の言葉を借りれば「まっさかさま」に転落しているさなかで、その年度は赤字転落さえ予想されていたという。
だが孫は、ソフトバンクモバイル(ボーダフォン・ジャパンの後身)の基地局を大幅に拡大することをユーザーにコミットした。
この決算発表でのスライドが成果を物語る。孫は「ここで5、6、7という数字を挙げさせてもらいたいと思います」と語りかけた。携帯事業に参入してから、ちょうど5年で「営業利益が約5倍」「携帯電話の基地局が約6倍」「携帯電話の顧客数が約7割増」ということだ。
スライドには、5、6、7という数字が大きく並べられ、見た者に数が増えていく感覚を与えるに違いない。まさに孫の代名詞でもあるスピードを実感させるキーワードだ。こうした工夫をすることでメッセージが明確になり、見た者の記憶に残る。
ソフトバンクが携帯電話市場で先行するNTTドコモとKDDIを猛追撃できたのは、一般的にはiPhoneの日本展開の成功によるものと理解されている。しかし、それだけが要因ではない。ボーダフォン買収後に基地局のような通信インフラを速やかに整備し、電波のつながりにくさを解消してきたことをスライドによって訴えた。
このように孫のプレゼンには、数字が非常に多く使われる。そして、その数字の見せ方が巧みなのだ。売上高にしろ、利益額にしろ、データそのままでは無味乾燥な数字にすぎない。孫にとって、数字は料理の材料なのである。それをどう調理するかが腕の見せどころだ。