ただ、長野の出身ではないだけに「落下傘候補」との批判もある。その点について「私は“Iターン候補”と自負している。羽田氏の縁もあって市田柿ふるさとPR大使を努めたり、ローカル局の特番に出演することも多く、長野にはシンパシーがある。それに長野には日本の指針となる優れたモデルが存在する」と訴える。

長野モデルとは何か?「長野は、平均・健康寿命が全国1位(筆者注:2014年データ)。死ぬまで元気に暮らすことを『PPK=ピンピンコロリ』と言うが、健康寿命を伸ばすことで医療費の削減が可能になる。これは行政の長年の努力で実現した成果。この取り組みを全国に広げることで、医療費を1兆円削減できるという試算もある」という。例えば「昔の野沢菜は塩辛かったが今は薄味になっている」そうだ。

「右目は熱く、左目はクールに」

杉尾氏は神戸出身だ。それだけに、阪神淡路大震災の現地レポートではテレビカメラの前で、はばからず泣いたこともある。そのような「熱くなって共感してしまう」性格は、政治活動にどんな作用をもたらすのか。

「記者時代から開高健さんの言葉『右目は熱く、左目はクールに』を肝に銘じている。熱い想いで共感する心を持つと同時に、物事を一歩引いてクールに俯瞰して見るようにしてきた。それは政治家にも必要な資質」

そんな杉尾氏に、注力する政策を聞くと「私自身イクメンではなかった反省から(1)少子化対策、(2)男女共同参画社会の推進に取り組みたい。国民全員がそれぞれの能力と意思において“自分なりに活躍できる社会”の実現を目指して活動する」と意気込む。ちなみに「孫が生まれたら“イクジー(育爺)”になる」と今から張り切っている。

しかしそう言われても、自民党の言う「1億総活躍社会」との違いがピンと来ない。「安倍さんの言う“1億総活躍”は、経済成長を念頭に置いた国家のために役立ってください、という国家主義的な考え方。そうではなく、全員野球のようにそれぞれの“個”が互いに欠点をカバーし合いながら活躍する社会」を目標にするという。

若い人が政治に無関心のままだと、シルバー民主主義が跋扈する


家族は当初出馬を本気にしていなかったというが、今では全面的にバックアップしてくれている。気にかかるのは、選挙戦が始まると散歩など面倒を見ることができなくなる生後半年の愛犬(ラブラドール・レトリバー)のことだそう

きたる7月の参院選は、18歳選挙権が施行されて初めての戦いとなる。杉尾氏は「若い人に政治への参加意識を持ってもらうきっかけになると信じている」と話すが、同時に自身の米国特派員経験に照らし、政治教育の重要性を説く。

「米国では大統領選になるとクラス内で各政党支持者に分かれ、ディベートを行って模擬投票を実施する。米国ではこのような教育を経て政治に関心を持つ若い人が多い。若い人が政治に無関心のままだとシルバー民主主義が跋扈(ばっこ)し、低所得年金受給者に3万円を給付するといった選挙目当てのバラマキが平然と行われる」と顔を曇らせる。

前回の衆院選では、60歳代の投票率が68%に達したのに対し、20歳代の投票率は32%と低かった。これではせっかく18歳に引き下げても効果が半減だ。ただ、公職選挙法の改正に伴い投票所の多箇所設置が可能となったことから「投票所をたくさん設置し、若い人が投票しやすい環境を作るべき」と説く。

さらに「松山大学では平成25年7月の参院選で期日前投票所を構内に設置した結果、20代前半の投票率が向上している。また、夏休みのラジオ体操のスタンプカードのように、投票スタンプを集める“選挙パスポート”といった取り組みもある」と即効性のある対策の推進を訴える。