ビリオネア名言録【5】
自己資産の99%は寄付に回す

分散投資はフィナンシャルプランナーら多くの専門家が勧める投資手法だ。しかし、集中投資を哲学にするバフェット氏にしてみれば、分散投資は「企業を分析する能力が欠けている人によるリスク回避策」。常人には真似できないようなやり方で、資産を40年間で数千倍、50年間で数万倍にも増やしたのである。

富の増やし方が常識外れだとすれば、富の使い方も同様に常識外れだ。

かねて自己資産の99%を寄付に回すと公言してきたバフェット氏。約束通りに06年、具体的な寄付計画を発表したのだが、その金額の大きさに世界中が驚いた。当時の時価で総額370億ドルだった。寄付文化が浸透している米国でもケタ外れであり、一個人による寄付としては史上最大と見られている。バフェット氏は「最強の投資家」「長者番付世界一」のほか、鉄鋼王アンドリュー・カーネギーや石油王ジョン・ロックフェラーらを超える「史上最大の慈善家」の顔も併せ持つようになったのだ。

370億ドルの大半は、ゲイツ氏が夫妻で運営する慈善財団「ゲイツ財団」へ回ることになった。バフェット氏は長者番付世界一になったものの、同氏保有のバークシャー株の多くはいずれゲイツ財団に移管される。結果として、同氏が長者番付リストから抜け落ちるのも時間の問題だ。

これまで大富豪が財産を寄付する場合、自分の財団を選ぶのが一般的だった。カーネギーがカーネギー財団、ロックフェラーがロックフェラー財団を創設したように、である。なぜバフェット氏は他人が設立したゲイツ財団を選んだのか。同氏は「自分には投資家として富を大きく増やす能力はあるが、慈善家として富を社会へ還元する能力ではゲイツ夫妻にかなわない」と説明している。

興味深いのは、バフェット氏の寄付がバークシャー株で行われる点だ。日本では寄付といえば自動的に現金が連想されるが、寄付税制が整備されている米国では株式による寄付も珍しくない。バークシャー株での寄付になったため、バフェット氏が投資家として今後も実績を出し続ければ、貧しい国々での医療問題の解決などを目的にするゲイツ財団の財産も膨らむという構図になった。

バフェット氏はバークシャー株をまったく換金売りしておらず、しかも同社株は無配である。つまり、同氏は長者番付世界一になりながらも、その富をまったく現金化しないまま寄付へ回し始めたのだ。現金収入は基本的にバークシャーの最高経営責任者(CEO)として受け取る基本給10万ドル(1000万円程度)に限られており、住んでいる家も中流階級の平凡な住宅だ。大富豪の中でもバフェット氏は異例の存在なのかもしれない。