今年、ビル・ゲイツ氏を抜き「世界一のお金持ち」となったウォーレン・バフェット氏。金融資産6兆円を超えるビッグ・マネーをいかにして築いたのか。氏に直接取材した筆者だけが知る「ビリオネアの秘密」を明らかにする。
ウォーレン・バフェットWarren Buffett
1930年、アメリカのネブラスカ州オマハ生まれ。株式投資家、経営者、慈善家。「オマハの賢人」とも呼ばれる。2008年、フォーブス誌の発表によると世界の長者番付1位となり、資産は620億ドル(6兆円超)。資産の8割以上を複数の慈善団体に寄付すると話しており、この金額はアメリカ史上最高のもの

ビリオネア名言録【3】
本物の投資家は「ミスター・マーケット」を相手にしてはいけない

日本では、株式投資で財をなした人は「相場師」と呼ばれることが多い。

たとえば、住友金属鉱山株をめぐる仕手戦などで知られた故・是川銀蔵氏は「最後の相場師」の異名をとった。英語で「相場師」や「仕手筋」に相当する言葉は「投機家(スペキュレーター)」だ。しかし、バフェット氏は「投機家」とは呼ばれない。

「投機家」と呼ばれないのは、「永久保有銘柄」が象徴するように短期売買と無縁であることと関係があるが、それだけではない。投機家は「直観」「噂」「市場心理」などを頼りにして、時には自ら事実上の相場操縦を行って莫大な利益を挙げようとする。代表例はヘッジファンドで巨富を築いたジョージ・ソロス氏だ。一方、バフェット氏はあくまでも投資家なのである。

「近代証券投資理論の父」と言われるベンジャミン・グレアム氏は『賢明なる投資家』の中で次のように書いている。ちなみに、グレアム氏はバフェット氏が師と仰ぐ人物だ。

「『ミスター・マーケット』という名の世話好きな人がいるとします。毎日、あなたの持ち株の価値がどのくらいかを教えてくれます。そして、あなたの持ち株を買うと申し出たり、自分の持ち株を売ると申し出たりします。『ミスター・マーケット』の考えがもっともらしく思えるときもあります。けれども、多くの場合、自分の熱に浮かされていたり、恐怖におののいていたりするだけです」

毎日アイデアを持ってくる「ミスター・マーケット」は本当の価値を知るはずがなく、本物の投資家は「ミスター・マーケット」を相手にしてはいけない、という。「ミスター・マーケット」と一緒に一喜一憂する人は投資家ではなく投機家なのだ。投機家はほかの投機家(つまり「ミスター・マーケット」)や投資家を見て行動するが、投資家は日々の株価に惑わされずに株価の背後にある企業を冷徹に分析する。収益力や財務状態、将来の見通しなどを徹底調査して本質価値を見極めようとする。その本質価値は、「ミスター・マーケット」が何を考えようが変わることはない。

証券用語を使えば、本物の投資家は「ファンダメンタルズ分析」に軸足を置く。そこから出てくる本質価値は、将来のキャッシュフローを一定の金利で割り引くことで算出した割引現在価値のことだ。「ミスター・マーケット」が感情を爆発させて、割引現在価値を大幅に下回る値段で自分の持ち株を売ると申し出たら、そのときこそ一気呵成に投資すればいいのだ。

「ミスター・マーケット」に惑わされずに、冷静に有望企業を発掘するために、バフェット氏は毎年数百冊に上るアニュアルリポート(年次報告書)を読む。アニュアルリポートを読めば、投資に値する企業かどうかは大体わかるという。米国では、株主総会に向けて経営者が書くアニュアルリポートは個性豊かだ。残念ながら、日本版アニュアルリポートは営業報告書であり、ほとんどが無味乾燥な代物だ。

過去の株価動向などを調べて将来を予測する「チャート分析」や「テクニカル分析」はバフェット流とは相いれない。日本ではチャート分析やテクニカル分析は今も幅を利かしているが、バフェット氏自身は「占い師の仕事」と一蹴している。毎日頻繁に売買する「デイトレーダー」も投資家というよりも投機家であり、同氏とは対極にある存在だ。