相手を責めるときって、往々にしてその人に「悪かった」と反省してほしいという気持ちが湧いてきてしまうものですが、いくら詰めてもこういう人は反省しないでしょう。逆に自分は被害者だとも言いだしかねません。そもそも嘘をつくことに罪の意識がないわけですから。人は他人を見るときに、どうしても自分のなかにあるものを投影してしまうものですが、自分の価値観とはまったくずれたところで生きている人がいるということをまず認識しましょう。

虚言癖のある人間は厄介ですが、その人の虚言がまかりとおってしまうことを防ぐための最強の防御策は、日常の自分の信用度を高めるということだと思います。周囲に信用されている人なら、おかしなうわさを流されたりしても、聞く人が真に受けることはないでしょう。日ごろから、自分の信用を高めておいて、つまらないことを言いふらされても「また言ってるな」くらいの感じでドーンと構えている。慌てふためいて、火のないところで火消をしようとするとかえって相手のウソの信用度を高めてしまいかねません。そうすると泥沼です。

どうしても誰かに聞いてもらいたいのなら「この人なら信じてくれそうだな」という人に限定して、事実を切々と伝えることだと思います。人は「意見を言う人」と「事実を言う人」のどちらを信じるかといえば「事実を言う人」です。腹が立っているとどうしても事実に意見を混ぜてしまいがちですが、それをがまんして淡々と事実の世界で生きる。そういう修行だと思うしかないですね。

結論としては、しかるべき立場の人間には極力事実だけを伝え、あとは追わず、絡まずでいくのがいいんじゃないでしょうか。何かされたときに「こんなことされてたんですよ!」と感情的になって上司にいいつけたり周囲にぶつけたりするのではなく「こういうことがあったんだけど、あの人どうしちゃったのかな」くらいの感じでいく。メールなど、証拠として残っているものがあれば、自分が自分の弁護士になったつもりでそれを淡々とコレクションしておく。本人や第三者に見せるというより、いざというときに自分を守るためです。

いずれにしても、相手と同じレベルでやり合うのがいちばん損をするのではないかと思います。

為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。
http://tamesue.jp