「自分の葬儀を事前に計画するなど縁起でもない」。それが“常識”だった時代はいまは昔。宗教的な儀礼を重んじるよりも、「ビートルズが流れる音楽葬を」といった自分らしさにこだわる人も増え、それに対応する葬儀社も登場している。万一に備えて、葬儀や墓の希望などを書き遺す「エンディングノート」も隠れたベストセラーだ。

遺族の立場で考えても、本人の意思が確認できるのは歓迎すべきことだろう。筆者も3年前に父を見送ったが、闘病一カ月で急逝したため、事前に葬儀の希望を聞くことはかなわなかった。都会の核家族ゆえ、葬儀を仕切ってくれるコミュニティーもない。悲しみに暮れる間もなく、「どのくらいの規模の葬儀にすべきか」「遺影はどれがいいか」と次々に実務的な判断を迫られて、途方に暮れたものだ。

幸いにもそのとき頼んだ業者はとても親切で、「思い出の写真を入り口に飾りたい」といった要望にも可能な限り応えてくれた。家族としては満足したが、「あれが父の望む葬儀だったのか?」との疑念はいまだに消えない。

「見積もりがなく、予想外の高額料金を請求された」などのトラブルを避けるためにも、元気なうちに家族で話し合って葬儀の計画を立てておくのは、案外、重要なことではないだろうか。

そんなニーズに対応して、葬儀の事前プランニングに力を入れる企業も出てきた。2007年4月に設立された「ディグニティ」は、長野県飯田市で80年の歴史を持つ葬儀社「いとう」を母体とするベンチャーである。

同社では「スローな葬儀にしませんか」をコンセプトに、従来の葬儀社主導の慌しい葬儀を見直し、ゆっくりと故人を偲ぶことを提案している。

重視するのは、葬儀の主役である故人(本人)が「社会や家族に何を伝え、何を残したいのか」を見極めること。そこで東京・青山の一角に、葬儀会社とは思えないスタイリッシュな相談ラウンジを設け、事前プランニングを無料で行っている。「手紙を預かり、子どもが成人するまで誕生日ごとに届ける」といったリクエストに応じるほか、葬儀のあと、家族や友人で「お別れの会」を開くプランも用意した。