“日本初”で広告費用換算は4億円!?

大阪・梅田のグランフロントと銀座のコリドー街に日本初の「養殖魚専門店」を出したのもその一環だ。大学直営の専門料理店も日本初。オープン当日に集まったのは、テレビカメラ20台。テレビの放映時間を広告費用に換算すると、およそ4億円になる。つまり、同じテレビ番組でCMを流すなど広告を打って同じ効果を得ようとするなら、4億円が必要だということ。それを話題性で勝ち取るのが近畿大学だ。

さらには、宣伝のおかげで店には長い行列ができ、ビジネスとしても成功している。

世耕石弘(せこう・いしひろ)
近畿大学広報部長。1969年、大阪府生まれ。大学卒業後近畿日本鉄道でのホテル事業や秘書業務、広報課長などを経て、2007年近畿大学に転ずる。最初のミッションは入学センター・入試広報課長として志願者数を増やすことであった。研究成果など近畿大学の実力を、広報の力で世に知らしめることに心血を注ぐ。2015年4月より現職。
近畿大学
http://www.kindai.ac.jp/

「当初は、養殖魚専門店も大学直営も日本初という宣伝だけのつもりで、お店のビジネス自体には期待していませんでした。ところが、テレビほか露出効果もあり、おかげさまでたくさんのお客様に来ていただいています」

このふたつの“日本初”はネタにしやすかったため、バラエティ番組などから次々とオファーを受けたという。ネタとして必要なのは新鮮な魚にくわえて、日本初“養殖専門店”“大学直営の店”というキャッチだ。芸人さんたちが養殖魚をとってきて、叶姉妹がゴージャスないでたちで、大学直営の居酒屋風の店で食事をした。異色さと違和感の話題性が、さらに話題を呼ぶ。

近畿大学は学力を蓄えることと並行して、話題を作ることでうまく宣伝につなげ、日本中にその名を知らしめたのである。そして、早稲田や明治の志願者を上回ることで、またその名が広まっていく。

この手法は、どんな大企業でも小さな店でも真似を考えてみる価値はあるだろう。自分ができる“日本初”や、“真っ先にふれることで友達に自慢できるような価値を作る”と、きっかけをつくるだけで知らないうちに人口に膾炙していく。誰もが話題にしたくなるから、SNSユーザーが“すごい”“いいね”をいち速く送ることで慧眼だと認められる特権も提供することになるからだ。こうして、その名は広まっていく。

ミシガン大学のある実験で、24人の被験者にパッケージを選ばせると、16人が見慣れたものを選んだという。誰もがすでに見聞きして知っているものを選ぶ傾向があるのは、そこには安心感があるからだ。知っているほどに安心感を得られ、周りが選ぶなら自分も……という同調作用が働く。つまり、できるだけ人がその名を知るほうが、選択肢の中から選ぶ確率は高まっていく。実力はあっても、いい品でも、埋もれてしまっては元も子もないだろう。さらには「既知感が肯定感や好意につながる」とされている。だからこそ、まずは人に知ってもらうことだ。それには、世耕さんが言う「タブーに挑戦すること」が、ひとつのとっかかりになるかもしれない。

さらに、近畿大学が明治大学・早稲田大学を抜いて日本一の志願者数になった理由には、まだ“日本初”が存在する。