【田原】インターネットなら双方向だから、そうした行き違いは生じないわけね。
【松田】はい。行き違いのトラブルがなくなれば、品ぞろえにも影響します。これまでは数の少ないCを入荷してもクレームの原因になるだけなので、業者もあえて仕入れようとしませんでした。たとえば九州でよくとれるアカイサキという魚があります。色がきれいでおいしいのですが、数が少なくてトラブルのもとになるから業者はまず取り扱いません。それもインターネットを導入することで解決します。私たちのサービスをご利用いただければ、埼玉の所沢にあるお寿司屋さんも、新鮮な佐世保のアカイサキを出せます。
【田原】アマゾンは普通の本屋で売っていない希少本をそろえる「ロングテール戦略」で成長しましたね。八面六臂のビジネスモデルもそれに近いですね。
安定志向だった学生時代
【田原】水産関係の流通業をやっているから松田さんは築地かどこかの人かと思ったけど、これまでは水産業とまったく縁がなかったそうですね。なんでも最初はプロの音楽家になりたかったとか。
【松田】大学時代はビッグバンドに憧れて、デューク・エリントンの楽曲をコピーするバンドでバリトンサックスをやっていました。プロの人に習いつつ、練習は1日8~10時間。法学部だったのですが、人に学部を聞かれたら軽音楽部と答えていました(笑)。
【田原】僕もジャズは聴きますが、演奏しようと思ったことはない。演奏っておもしろいですか。
【松田】ワクワクしますよ。パッと聴いたときに直感的に楽しいし、曲を分解していくと極めて論理的で緻密につくられている。リスナーとして感動したら、次は自分で再現したくなるじゃないですか。
【田原】それほどのめり込んだのに、結局は途中でやめてしまった。これはどうして?
【松田】絶対音感がなかったのです。たとえば手を叩く音をポンと聴いたときに、絶対音感を持った人なら、「これは『ラ』だ」とわかります。これは小さいころから音楽をやっていないと身につかない一種の才能です。私が習っている先生は絶対音感を持っていて、練習すればするほど自分と住んでいる世界が違うと思い知らされました。