学生時代は官僚志望。失敗して銀行へ就職するも、1年半で転職。そこも2年で辞め、起業。だが、次第に資金繰りが悪化。倒産寸前に。起死回生を――彼が選んだのは、因習が支配する水産流通業だった。
ロングテールで水産流通革命
【田原】松田さんは八面六臂という会社をつくって、水産業の流通改革に取り組んでいらっしゃる。具体的に、この会社でどういうことをされているのですか。
【松田】市場や漁師さんから仕入れた魚を飲食店に販売していて、築地からほど近い中央区豊海に物流センターを構えています。市場と飲食店をつなぐ卸業者は昔からたくさんいるのですが、私たちはインターネットを使っていることが大きな特徴。他の業者さんは、いまだに電話やファクスが主流です。
【田原】僕は魚の流通の世界はよくわからないけど、電話やファクスだと何か問題あるのですか。ずっとそれでやってきたんでしょう?
【松田】電話とファクスだとできないことがあります。たとえばある卸業者さんが、A、B、Cという3種類の魚を仕入れたとします。これらの在庫が無限にあるなら、何の問題もありません。しかし、鮮魚は工業製品とは違うので、Aは120本入るけれども、Bは30本、Cは10本しか入らないということもざらにあるわけです。この品ぞろえをファクスで飲食店100店に流したら、どうなるのか。Aは在庫が豊富なので注文が殺到しても大丈夫ですが、BやCはすぐ欠品になってしまうでしょう。
【田原】インターネットでも、仕入れが少ない商品はすぐ欠品になるんじゃないですか?
【松田】そうなのですが、インターネットなら欠品情報をリアルタイムでウェブサイトにのせることができます。飲食店は「この魚、今日はもう品切れか」とわかるのでトラブルも起きません。
【田原】逆に言うと、ファクスだとトラブルが起きる?
【松田】通常、飲食店はその日のラストオーダーが終わってから翌日に必要な商品を注文します。それがだいたい夜10時ぐらいから翌1時くらいです。ただ、その時間は業者も寝ているので、対応できません。業者が起きるのは、市場が動き始める翌朝の3~4時。そのとき各飲食店から届いたファクスの山を見て、「Cは10本しかないのに、40本の注文が入っている」と気づいても遅い。慌てて飲食店に電話しても連絡は取れないし、昼ごろにようやく連絡が取れても、「Cを使う予定で他の材料を仕入れてしまった。いまさら欠品と言われても困る!」とクレームになるだけです。