こんなドン底の状況を前にして経営者はいったい何をするべきか悩みましたが、そのとき頭に浮かんだのが、従業員を叱咤するのではなく、ともに痛みを分かち合うということでした。五島が常々「窮地にある人ほど救ってあげなければいけない」と口にしていたことを思い出したのです。

そのために社長就任直後から全国の店舗を行脚して私の方針を従業員に直接伝え、従業員が何を求めているかに耳を傾けることにしました。そのとき、「心と体の健康に留意して、明るく元気に仕事をしてください」と必ずつけ加えることにしました。平易な言葉ですが、従業員のマインドを変えるには、苦しいときこそ経営者が従業員の立場に立ち、こうした言葉を繰り返し発信することが重要だと考えたのです。

現在では、円安や東京オリンピックの決定などの影響でインバウンドが急増し、環境も好転。リーマンショック前を超えるレベルに改善するまでになり、過去の最高益を超える水準感に達しています。

しかし、わが国のサービス業、なかでもホテルの営業利益率はまだまだ低いと思っています。欧米に比べ日本のホテルは宿泊単価が低いこともその一因ですが、業績が好調なうちに設備投資に力を入れることで商品価値を上げることに注力しています。また、世界のお客様にグローバルな視点でわかりやすく使いやすいブランド体系にしようと、今年4月にはホテルブランドを刷新しました。簡単ではありませんが、営業利益率の高い会社に育てる。そんな夢があります。

東急ホテルズ社長 高橋 遠
1950年、東京都生まれ。74年東京大学経済学部卒業後、東京急行電鉄入社。秘書課、財務部、都市生活部、取締役などを経て、2012年4月に東急ホテルズ社長就任。1年で黒字に転換。15年4月からホテルブランドを再編し、今夏は二子玉川エクセルホテル東急、USJオフィシャルホテルをオープン。東京五輪後を見据え、成長戦略を進める。
(小原孝博=撮影)
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