人材の成長を考える余裕がない今の政治の世界
私の解釈が正しいとすれば、今回の小沢氏の動きは、彼が望む新体制が構築されたときの党内納得性を考え抜いた結果だと言えるかもしれない。特に鳩山氏やその支持者が納得して岡田氏を幹事長として受け入れ、また岡田氏本人や支持者が、岡田氏の執行部入りに納得するための配慮である。
詳しくはわからないが、最初は迷っていたように思われる岡田氏も、案外簡単に執行部入りした。もちろん、選挙担当の筆頭代表代行という小沢氏が自分に与えた役割に関して党内が納得しているかどうかは議論のあるところのようで、この点に関しての納得感の確保が次の火種になるかもしれないが、おおかたは成功だったようだ。
ここまでの2点がスタート時点でのポイントである。だが、組織構築というのは、1回構築して終わりというわけではない。人と仕事との関係、さらにはその結果としての周りの納得感は常に変化する。したがって、スタート時点で最適な構築をしたとしても、いつまでも同じ状態が続くわけではない。変化のマネジメントが組織構築の重要な一部である理由である。
では、具体的には何をマネージしていくのか。大きく2種類あるだろう。第一は、組織論の教科書にある内容と同じで、組織内外の環境が変化し、仕事の内容が変わることに対する、一人ひとりに割り振る役割内容の変更である。環境変化に合わせた役割の再設計と人の再配置、これは難しいが、環境変化への合理的対応である。
だが、人を率いるリーダーは、もう一つの変化要素をマネージしなくてはならない。というか正確には、もう一つの要素を変化させることがリーダーシップをとるうえでの組織構築の別の目的であると言ってもよい。具体的には人材の成長である。
確かに、組織構築は今の課題を解決し、目標を達成するために行われる作業であり、ここまで述べてきた役割設計と配置、および納得感の確保は、目的達成のための手段である。その意味で、プロジェクトチームのような、目標が明確で期限つきの職場で最もフィット感がある。
だが、長期的に存在する組織では、短期的に人を配置し、それを周りに納得させるだけではなく、組織構築を通じて人を育てることが重要になる。人が育つにはいい仕事経験がカギであることはよく知られており、この仕事経験を与える作業が組織構築なのである。そして、ここにあげたような意味での組織と人の組み合わせが変わることで、人が育つ。このプロセスをマネージするのがリーダーなのである。
今回こうした配慮は小沢氏にはなかったのかもしれない。鳩山氏や岡田氏は育てる対象ではないからだ。ちなみに、傍から見る限り、今の政治の世界は極めて短期志向であり、人を育てるということを政党や政党の指導者が考える余裕がないようにも思える。やや不安だ。
企業ではそうはいかない。組織を構築するとは人を育てることでもあるのだ。納得のいく形で人と職務をマッチングさせ、目標を達成するだけではなく、この作業を通じて人を育てることまで含めて、リーダーの組織構築力が問われるのである。